抄録
1.はじめに 千里断層は三重県中部に位置する布引山地東縁断層帯東部区間最北部を構成する活断層である(地震調査研究推進本部(以下推本),2004).その存在は,津市河芸町の千里台地が東へ撓曲変形することから指摘され(森,1970;KIMURA,1971;1972;1973),吉田(1987)では露頭で観察される東海層群の傾斜変化を断層活動の影響と考え,これを千里断層と命名し,その長さは鈴鹿市道伯町まで約7km,平均上下変位速度は約0.2m/kyと報告している.一方鈴木ほか(2010)では千里撓曲を約2kmの範囲で記載している.また中ノ川の左岸,鈴鹿市白子付近で北東-南西方向約2.5kmの北西側隆起の低断層崖を認め,さらに約4km北方の同市神戸から四日市市河原田町付近に北北東-南南西方向約3.5kmの西側隆起の断層を記載している.推本(2004)ではこれらを合わせて断層帯を示している.一方で変位量や変位速度といった活動の詳細はほとんど明らかにされていない. 本研究では千里断層帯の活動性の解明を目指し,現地踏査と地形・地質断面図を作成し,断層による変位量、変位速度を検討した. 2.調査地点と調査方法 調査地域は津市河芸町西千里付近から鈴鹿市の鈴鹿大橋付近で,大半が鈴鹿川流域となっている.空中写真判読より地形分類図を作成し,変動地形を抽出して変動地形学図を作成した.さらに変動地形を横切る現地測量の実施,数値標高データ,ボーリングデータを用いた地形・地質断面図の作成,また東海層群や粘土層の高度分布図を作成した. 調査地域に分布する各段丘面は太田・寒川(1984),片岡・吉川(1997),石村(2013)を参考に,高位段丘面(H2:約150ka)と中位段丘面(M2:約100ka),低位段丘面(L1-3:約15-30ka)に対比・編年した.なお断層の低下側は大部分が沖積低地となっている. 3.変動地形と地下地質に見られる千里断層の活動性 千里断層では,千里台地付近に撓曲変形が認められる.高位段丘面(H2),中位段丘面(M2)において測量を行い,それぞれ約32.5m,約15mの撓曲による変位量を確認した.これまで唯一変位量を示した吉田(1987)との大きな差はないが,それぞれの段丘面は,断層低下側が沖積面下に埋没していることから,得られた上下変位量は最小値である. 北部延長部の鈴鹿市白子付近では,低位段丘面(L1,L2)の東縁を境する低崖を測量し,約2-3mの変位が認められる.しかしここでも断層低下側が沖積面下のため,変位量は最小値である.これらの上下方向の平均変位速度は,高位段丘面で約0.21km/ky,中位段丘面で約0.15km/ky,白子付近の低位段丘面で約0.05-0.15km/kyであり,断層変位が北部にいくにつれ減少する可能性もある. さらに北方の鈴鹿市神戸付近では地表に変位がみられないが,地下層序から断層の変位量を検討した.地形地質断面図では基盤となる東海層群とその上位の下部粘土層において上下変位量がそれぞれ西側隆起約15m,12mであり,変位の累積性も認められる.但し,地下層序の年代試料が得られておらず,特に下部粘土層の堆積年代の解明が課題である.