日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 311
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発表要旨
名古屋地域における介護施設の職員採用
*加茂 浩靖
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抄録
本研究の目的は、介護労働力の需給が逼迫する名古屋地域において、介護施設を運営する法人がどのような方法で介護職員を採用しているのかを明らかにすることである。本研究では、大都市圏の事例地域として名古屋中、名古屋南、名古屋東の3つの公共職業安定所の管轄区域を選定し、名古屋地域と呼ぶ。研究資料を得るため、名古屋地域で施設介護を運営する法人を対象に聞き取り調査を依頼し、48法人から回答を得た。法人種別によってまた運営する施設が単一か複数かによって採用方法が異なると予測されるため、回答を得た法人を、営利法人、社会福祉法人、医療法人に、さらに単一施設と複数施設に分類して分析した。愛知県における2015年度の有効求人倍率(パートタイムを含む常用)は、職業計が1.39であるのに対して、介護関連職業は4.24と大きな差が認められる。全国の介護関連職業の有効求人倍率が2.68であるため、介護関連職業の労働力不足は愛知県で特に深刻である。愛知県の中でも、社会保険・社会福祉・介護事業職求人の充足率が低い地域は名古屋地域である。職安管轄区域別の2015年度のこの充足率は、愛知県の管轄区域平均では14.6%であるが、名古屋中で10.8%、名古屋南で12.0%、名古屋東で10.5%にすぎない。こうした地域労働市場のもとでの採用活動には以下のような特徴を見出すことができる。まず注目されるのは、フィリピン等から来日した在日外国人の介護職従事であり、48法人のうち41法人で在日外国人の雇用実績があった。この背景には、派遣会社による在日外国人を対象とした介護人材育成事業の愛知県内での展開があると考えられる。単一の施設を運営する法人では、年間離職者が少数で、その多くは女性の年度途中離職者であるため不定期採用が中心となるが、費用負担の少ない公共職業安定所紹介等での充足が困難になり、労働者派遣や有料職業紹介を用いた職員確保へと変化している。複数施設を運営する営利法人では、新規学卒者の応募が限定的なため中途採用へと移行していて、有料職業紹介等を利用した介護職員の確保のほか、養成校を経営する営利法人ではその修了者の採用に特徴がみられる。複数施設を運営する社会福祉法人および医療法人では、新規学卒者に募集の重点を置くが、介護福祉士資格を応募条件にする法人がある一方で、その充足の難しさから、資格未取得者や福祉系高校・学部以外の学卒者が半数を超える法人も見受けられる。さらに職員寮等を所有する一部の法人は、福祉系高校の立地が卓越する宮崎県や鹿児島県等の通勤圏外から新規学卒者を採用する、あるいはEPA(経済連携協定)外国人介護福祉士候補者を受け入れている。調査回答法人のうち9法人が候補者を受け入れていた。将来的な国内人材の減少を見越した安定的な職員の確保等が受け入れの理由であり、候補者を受け入れる一方で、日本人の新規学卒者対象の募集を抑制する法人も見受けられる。
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