日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 303
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発表要旨
岐阜県の地籍編製事業と公図との関係
*飯沼 健悟
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抄録

はじめに
明治前期に作られた地籍図には,壬申地券地引絵図,地租改正地引絵図,地籍編製地籍地図,地押調査の修訂図,更正地図がある。これらは明治22年の土地台帳附属地図(公図)の骨格となり,現在は法務局に備え付けられている。全国から膨大な事例を集めた佐藤甚次郎の研究(1986)により,明治前期の地籍図と公図との関係性が整理され,全国的な変遷が示された。
しかし,古関大樹の研究(2009)において,地籍図作成の実施には,地方で抱える様々な問題により政府の施策指示の単純履行が不能であり,地方の事情に応じた再調整が行われたことが示された。結果として非常に大きな地域偏差が生じており,地籍図に残された複雑な地域偏差は,現在の不動産登記にも多大な影響を与えている。
平成18年に不動産登記法が100年ぶりに大改正され,土地境界問題の裁判制度の過程における新たな制度(筆界特定制度)が設けられた。これによって明治期の地籍図が証書として位置付けられ,明治期の地籍図と公図との関係性について,地域に即した対応および検証する必要が生じている。岐阜県土地家屋調査士会では,平成14年より地域の検証を行ってきた。本研究は,その成果をもとに地籍編製事業と公図との関係性を考えてみることにしたい。

岐阜県の地押調査と土地台帳附属地図(公図)
岐阜県では,明治18年(1886)2月25日に「地籍編纂心得書」を伝達し(戌第4号達),同事業への着手を計っていた。その時,明治18年(1886)2月28日に政府から地租改正の成果が粗雑な地域の再調査を促すための「地押調査ノ件」が伝達された。内務省が主導した地籍編製事業と大蔵省が主導した地押調査は,他府県では,別々に行われた場合が多い。しかし,岐阜県では時期が重なったことから,両調査は兼ねる形で進められることになった。明治18年5月12日の岐阜県の「地籍帳及地図整理手順」(戌第10号達)では,地籍編製事業を基本としつつも地押調査の方法も加えられ,地籍帳と地図を備置することが指示された。現在,県内で確認できる公図は,これを受けて整備された地図である。

岐阜県の地籍編製事業
明治18年2月25日の「地籍編纂心得書」と明治18年5月12日の「地籍帳及地図整理手順」を受けて,県内では地籍帳と地図の整備が進められた。旧美濃国では,明治10年に地籍帳が一度整理されたが,地租改正の成果をそのまま充当したもので,地図は整備されなかった。地籍編製事業では,官有地と民有地の区分が重要視されため,明治10年の地籍帳を破棄し再調製することとし,改めて調査が指示された。併せて,地租改正地引絵図に代わる正確な地籍図の作成を目的として土地境界の再調査が行われた。官有地では,道路,水路,河川および堤敷などの公共長狭物が重要視され,これらの丁寧な調査により地籍編製地籍地図が作成された。
地籍編製地籍地図が残っている地域で法務局の公図と比較してみると,道路,水路,河川,堤敷などの種類,長さ,幅員,反別などの記載情報が一致する。その数値の一致も見られることから,法務局の公図は明治18年から行われた土地調査の成果が基になっていると評価することができる。
公図にある民有地については,地押調査の成果が反映されることになった。

地籍編製事業と筋骨測量
岐阜県の地籍編纂心得書第4条において「國郡村字界及ヒ道路堤塘河溝等ノ製圖上筋骨トナルヘキモノハ實地精密測量スヘシ」と指示された。国郡村字界,道路,水路,河川,堤敷などを骨格とした測量方法は,県内では「筋骨測量」と呼ばれている。その測量には,中方儀や小方儀が使用され,画用紙に鉛筆で作図するという方法であった。当時使用された中方儀などは,各地に配布され,現在も一部の地域では保管されている。
筋骨測量は,測量技術伝習所で学んだ生徒により作業が進められた。当時の野取り野帳,測量図を見ると,長狭物の屈曲などの形状が測定されており,境界の形状を正確に調査し,製図されていたことが確認できる。これは,明治期より現況に大きな変化のない地域の公図と現況とを重ねると,概ね一致することでも確認ができる。

まとめ
岐阜県の法務局備付けの公図は,地籍編製事業の精密測量の成果を基にしている。地籍編製事業と地押調査とが別々に行われた地域には見られない特徴であるが,このことは全国の地籍図を理解する上でも重要である。
明治期の地籍図と公図との関係を探る研究は,学術的な重要性だけではなく,現在の地籍制度ならびに不動産登記を適正に理解するためには欠かすことができないものである。本発表では,より前段階で作成された壬申地券地引絵図,地租改正地引絵図の分析は行なえなかったが,これは今後の課題としたい。

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