抄録
I.はじめに
北海道北部オホーツク海側の頓別平野周辺では,頓別川・猿払川などの下流域に中期更新世以降に形成された海成・河成段丘と,沖積低地や砂堤列などが分布する(小疇ほか,2003).頓別平野周辺においては,砂堤周辺や低地に比較的大規模かつ希少な湿原植生も保存されるとともに砂堤列には多くの縄文以降の遺跡が分布する.以上の背景から,頓別平野における沿岸部の完新世の地形発達史と湿原の形成や遺跡の立地の関係の解明が求められている.本研究の対象地域では,中期~後期更新世の地形・堆積物の編年にあたってルミネッセンス年代測定法の適用が有効であるとされている(Kondo et al., 2007).そこで本研究では,頓別平野の砂丘,関連する沖積層や段丘群の編年をルミネッセンス年代測定法によって行い,地形発達史を明らかにすることを目的とする.
II.方法
ルミネッセンス年代測定にあたっては,堆積物中の石英微粒子または石英粗粒子を用いたSAR(Murray and Wintle,2000)法によるOSL年代測定法,多鉱物微粒子またはカリ長石粗粒子を用いたpost-IR IRSL (pIRIR)年代測定法(Thomsen et al., 2008)を適用した.一部の試料については,同一層準でAMS14C年代測定を行い結果の比較を行った.
III.結果とまとめ
頓別平野周辺の完新統の編年にあたってはpIRIR年代測定法が有効であることが確認された(Reimann and Tsukamoto., 2012).野外調査とpIRIR年代測定結果などに基づく頓別平野沿岸部における低地周辺の地形発達史は以下のようにまとめられると考えられる. 1)約6万年前までに平野南東部の豊寒別川では扇状地が発達.2)約5.5万~3万年前頃に豊寒別川下流域には湿地が形成.3)約3万~1.9万年前頃には2)が段丘化し周氷河作用が卓越.4)約6千年前には,現在最も内陸に位置する砂丘が形成.5)約5千年前頃に現在の頓別平野沿岸部に長大なバリアーが形成され,同時に頓別川・猿払川流域の広範囲で泥炭の堆積が開始した(大規模な湿原の形成).6)約3.5千年前~約2.5千年前に現在の沿岸部で最も大規模な浜堤が離水し同時に砂丘砂も堆積した.砂丘砂が安定した砂堤上では人類活動が活発化した.7)約2.5千~約2千年前頃に複数回のストームによる高潮・越波により砂堤表層の侵食や堆積が生じた.8)約2千~1千年前には,現在最も海側に位置する砂堤が形成.より海側にも砂堤が形成されて分布していた可能性が高い.9)現在までにより海側にかつて存在したと考えられる砂堤はストームにより高潮・越波侵食され失われた.現在最も海側の砂堤も波浪侵食で失われつつある.
引用文献:小疇ほか(2003)東京大学出版会,359p.;Kondo et al.(2007)Quaternary Geochronology, 2, 260‒265.;Murray and Wintle(2000)Radiation Measurements, 32, 57-73.;Reimann and Tsukamoto(2012)Quaternary Geochronology 10, 180-187; Thomsen et al. (2008)Radiation Measurements, 43, 1474-1486.