日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 902
会議情報

発表要旨
分野間の連携による政策遂行の単位としての経済圏域の検討
*福田 崚
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
背景と目的
交通・通信手段が発達する中で, 経済的な結つきの地理的広がりは拡大しており, 地域の経済発展を意図した政策実現するにあたっても, 従来の自治体の枠組みにとらわれない広域的な連携が必要であると思われる. 連携中枢都市圏では, 複数の基礎自治体の連携した領域の中でコンパクト化とネットワーク化を進め自立した圏域を形成し, もって「人口のダム機能」を果たすことが期待されている(辻 2015). より広域的には複数の都道府県をまとめた領域による道州制が構想されている. ここでも税収等の観点から自立した圏域を作り出すことが必要である(森川 2010).
また, 実際に地域の敬愛発展を促す政策を遂行するにあたっては, 行政だけにとどまらない, 経済に関わる多くの分野の連携が必要である. 首相官邸(2016)は「産官学金労言士」の連携が肝要であるとしている. この連携を担保する観点からも広域的な圏域を設定することが望ましかろう.
経済的なつながりに基づいた圏域設定として福田(2016)があるが, 現状の自治体の領域や連携の枠組みを無視しており, 政策を遂行するにあたっては実現困難な設定である. 本稿では産官学金労言士の分野間の連携による経済発展の推進が可能な圏域の在り方を議論することをめざす. 
手法
想定しうる「官」の領域として, 連携中枢都市圏・都道府県・道州制を単位とし, 他の分野における圏域ごとの自立の程度を確認することを通して, 圏域の妥当性について議論する.
「産」「金」「士」については, 帝国データバンクが保有する企業間ネットワークのデータを用いて, 域内でどの程度完結するかを見る. 「学」「労」「言」については, ネットワークのデータが充分に得られないため, 担い手となる企業の立地や団体の連合の状況を分析する.
連携中枢都市圏は, 2016年度末の時点で連携中枢都市圏ビジョンを策定済の23圏域を対象とする. 道州は地方制度調査会(2006)の13道州案を利用した.
結果
結果の一例として, 道州ごとの「産」「金」「士」ネットワークの域内完結率について論ずる. 「金」についてはほぼ100%, 「産」「士」については概ね5割から7割程度の完結率である. また, 国土縁辺部においては比較的域内完結率が高い.
全体を要約すると, 「金」のように極めて短い距離での結びつきが強い分野を除き, 都道府県の役割が大きい. 取引のように変化しやすく, 比較的自由競争に近いネットワークでは県境をまたいだ結びつきも強い. この結びつきはしばしば連携中枢都市圏によりカバーされている. 「広島広域都市圏」など一部の連携中枢都市圏に見られるような, 県に匹敵する程度の広範さを持った基礎自治体による連携も有用であると考えられる.
著者関連情報
© 2017 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top