日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S1204
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発表要旨
朽木地域における野生動物によるトチノミの捕食
*山科 千里
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抄録
1.はじめに トチノキ(Aesculus turbinata)は、9月ごろ日本産広葉樹の中で最も大きいといわれる種子をつける。一母樹あたりの種子生産量は数百~数千個といわれ、これら大量の種子は地域の人びとや野生動物にとって重要な資源になってきた。トチノミはデンプンを豊富に含む一方で、タンニンやサポニンといった苦みや渋みの原因となる二次代謝産物も含むため、採食する野生動物は限られる。これまでの報告では、ネズミやリスによる種子の貯蔵利用や、ツキノワグマによる採食が報告されている。また、稀ではあるがシカによるトチノキの種子や実生の採食も報告されている。 しかし、トチノキの成長過程(種子散布・捕食、実生の生存)を通じた野生動物の影響については十分明らかになっていない。さらに,近年本調査地では地域の人びと「トチノミが採れなくなった」と訴えており,人びとのトチノミ利用にも変化がみられる。以上から,本研究は、滋賀県北西部朽木谷のトチノキ巨木林におけるトチノキの更新への野生動物の影響を明らかにすることを目的とした。 2.調査方法 ①トチノミが結実し落下を始める9月にトチノミを25個ずつ設置した実験区を12ヶ所設置し、赤外線自動撮影カメラを用いてトチノミを捕食する動物を撮影した(2012年実施)。 また,トチノキの実生および自然落下した種子を採食する動物を明らかにするため,②トチの実生が出現する5~7月に7個体の実生に、③8~9月にはトチの結実木下1個体に赤外線自動撮影カメラを設置し、訪問動物とその行動を観察した(2014年実施)。 3.結果と考察 調査の結果、①の実験区では種子を設置した5日後には約9割、1ヶ月後には全てのトチノミが消失した。この間、カメラにはアカネズミのみが撮影され、アカネズミがトチノミの種子を持ち去る様子が何度も記録されていた。②のトチノキの実生調査では、観察したすべての実生は7月の終わりまでに枯死した。この間、アカネズミが頻繁にカメラに記録され、実生を掘る・実生に登る・実生の葉を齧るなどの行動がみられた。③のトチの結実木下では、シカ・アカネズミ・イノシシ・ニホンリス・アナグマ・カエルなどが観察されたが、ここでは、シカがトチノミを頬張って食べる様子が記録されていた。 以上から、朽木谷においてトチノキの種子や実生はアカネズミの影響を大きく受けていた。アカネズミはその場でトチノミを採食せず持ち去るため、どこかに貯蔵したことが考えられるが、ネズミによるトチノミの種子散布はトチノキにとって有効な指向性散布にならないことが指摘されている(Hoshizaki et al. 1999)。また、本研究ではシカによるトチノミの採食が確認された。シカはトチノミを噛み砕いて採食したため、トチノキにとっては種子捕食者と考えられる。今後、各動物種のトチノミの採食量や野生動物がトチノキの更新等に与える影響を明らかにしたい。   Hoshizaki, K., Suzuki, W. and Nakashizuka, T. 1999. Evaluation of secondary dispersal in a large-seeded tree Aesculus turbinata: a test of directed dispersal. Plant Ecology 144: 167-176.
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© 2017 公益社団法人 日本地理学会
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