日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 531
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発表要旨
「エスニックな場所の構築」―アメリカ地理学における議論から―
*杉浦 直
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抄録

「エスニックな地理空間」の生成・変容に関する近年の文化・社会地理学的研究においては、実体的な地域形成過程の分析のみならず、表象的次元を重視した「場所の構築(place-making)」の概念と絡めて議論される傾向が強い。本発表においては、1)「エスニックな場所の構築」過程の概念とその類型(カテゴリー)を考察した上で、2)アメリカ(カナダを含む)の近年の地理学におけるエスニックな場所の構築を論じた研究事例をいくつか取り上げ、その議論の内容を紹介する。 そして、3)上記の事例から浮かび上がる主要な論点と新たな認識を整理・考察して、近年のアメリカにおけるplace-makingの動向・本質の考察深化に寄与したい。
「エスニックな場所の構築」とその類型
 「エスニックな場所」の構築には、通常の人口や施設の集積過程のみならず、そこをエスニックに「意味付け」する表象的な過程が必須である。このエスニックな意味付与とその強化の過程を含めて、「エスニックな場所の構築」と呼びたい。この「エスニックな場所の構築」には、2つの基本カテゴリー;Ⅰ:エスニックな場所そのものの新たな生成・構築 、及び、Ⅱ:既存のエスニックな場所におけるエスニシティの再活性化・再発見(エスニックな場所の再構築)を想定し得る。
アメリカ地理学における「エスニックな場所の構築」研究の事例
 ここでは、近年のアメリカやカナダにおけるエスニック都市空間の動態的研究のうち、特に「場所の構築」の視点を強調した8つの研究事例を検討する(詳細省略)
考察―上記事例から抽出される認識
 1)「場所の構築」過程の本質:場所(place)は、シンボルが空間に積み重ねられることによって特別な意味を付与された空間(事例5)であり、単なる文化的生産物ではなく、ある文化的モデルを使用した文化的(再)生産物 である(事例1、7)。その構築は、特定の文化的文脈の下で理念的景観が創り出される過程であり、多様なフィジカルかつ象徴的な方法で、自らの場所が創りあげられている。 また、場所の構築は二元的性質をもち、ロカリティが構築されるのみならず、それによって社会や文化も構築される。2)表出文化とエスニシティの真正性:近年の「エスニックな場所」における表出文化やそのエスニシティは、商業やツーリズムの振興策と結びついたとき、もはや通常の意味でオーセンティックとは言えない。しかし、住民の意識には真正性へのこだわりが強く見られる。それは「演出された真正性」であり、交渉され異化された真正性であると解釈できる(事例6、7)。3)「ストレス‐シンボル化過程」:多くの事例において、シンボリックな構造の創出を通してストレスが緩和される過程が観察される。また、その過程はRowntree and Conkey ,1980, A.A.A.G., 1980, 70-4, 459-474.)によって提唱された「空間的ストレス-シンボル化過程」のモデルに適合する傾向が強い。

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