日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S0401
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発表要旨
中部山岳地域における最近数10年間の気候変動
*鈴木 啓助
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キーワード: 気温, 水資源, 降雪, 融雪
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抄録

アメダスと呼ばれている気象庁の「地域気象観測システム」は、全国の約1,300ヶ所に設置されている。降水量の観測地点が最多で、平均すると約17 km間隔の地点で観測されている。しかしながら、現在でも通年で降水量を観測している地点の最高所は御嶽山の2,195 mで、次いで上高地の1,510 mである。積雪深を観測しているアメダス地点はさらに標高が低く、日光の1,292 mが最高所で、次いで菅平の1,253 mである。気温については、観測標高3,775 mの富士山で観測されているが、次が1,350 mの野辺山である。いずれの気象要素も高標高地点での観測が極めて少ないのである。標高1,500 m以上の面積は、日本全体の2.2 %に過ぎないとはいえ、アメダスの観測地点1,300ヶ所の2.2 %は28.6ヶ所に相当することから、気象要素の観測地点の単純な割合からみても少ないといえる。
気象官署における観測結果からは、年平均気温が1 ℃変化するためには、南北に約118 km移動しなければならない。しかし、気温逓減率を0.65 ℃/100 mとすれば、標高差では154 mあれば気温は1 ℃異なることになる。つまり、気温の水平的な変化に対して高度方向の変化が約770倍も急激であることになる。このことから、地球規模での気候変動に対して高山帯の環境は敏感に反応するといえる。また、一般には標高が高くなれば降水量は増加することが知られており、そのため山岳地域は貴重な水資源の供給地となっている。水資源という観点では、白いダムとして山岳地域の流域内に比較的長期間にわたり堆積し続ける雪の役割は雨にもまして重要である。
地球規模での気候変動に対して山岳地域の気候要素が如何に応答するのかは、人間のみならず、そこでの生態系にとっても重要であるにもかかわらず、気象庁による観測地点が山岳地域では極めて手薄であるため、蓄積された観測データに基づく山岳地域における気候要素の将来予測は困難であるといわざるを得ない。
2014年12月12日に気象庁と環境省から発表された「日本国内における気候変動予測の不確実性を考慮した結果について」では、現在(1984年~2004年)と比較した将来(2080年~2100年)の気候変動の予測結果を取りまとめている。それによれば、年最大積雪深はすべてのシナリオで減少し、降雪量はほとんどのシナリオで減少する。特に減少量が大きいと予測されている東日本日本海側地域の代表としてあげられている新潟では、現在の冬季でも雪/雨の閾値付近の気温であるため、気温が上昇するシナリオでは、降雨が増え降積雪量が減少するのは当然である。現在でも、低標高地点では暖冬の年は降雨率が高い。一方、上記の予測では、北海道の寒冷地では降雪量が増加となる地域もある、と報告されている。現在でも、暖冬か寒冬かに関わらず、北海道の年累積降雪深はほとんど変わっていない。北海道の冬は、雪/雨の閾値よりも低い気温での降水なので、わずかの気温上昇では、降水粒子が固体から液体になることはないためである。では、なぜ、同じような気温条件で雪が降っている中部山岳地域でも、将来は降雪量が多くなると予測されないのだろうか。気温の上昇によって海からの蒸発量は増加するから、それに対応して降水量も増加する。中部山岳地域では、北海道と同じようにわずかの気温上昇では氷点下のため、降雪粒子が融けて雨になることもないので、降雪量は増加すると考えるのが妥当ではないだろうか。最近になって、中部山岳地域でも降雪量が増加するという予測研究が発表されるようになったが、本州の高標高地域では北海道とのアナロジーが成立することを考えてみたい。
ここでは、既往の観測データに基づいて中部山岳地域における最近の気候変動を報告する。

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