日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S1507
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発表要旨
日本における19世紀気象観測記録の収集とデジタル化
*財城 真寿美塚原 東吾平野 淳平三上 岳彦
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抄録

1. はじめに 気候変動に及ぼす人為的要因の小さい19世紀の気候の特徴を明らかにすることは,人間活動の影響が強まる将来の気候を的確に予測するためにも重要である.また19世紀は「小氷期」終焉の時期にあたり,当時の気候を詳細に復元するには,気象観測データが不可欠である.  日本では,気象庁による1870年代以降の気象観測データが一般的なデータセットであるが,筆者らの研究グループでは,19世紀初頭から幕末・明治期にかけて日本各地で観測された気象観測記録のデータレスキューを行っている(図1).本発表では,19世紀の日本における気象観測記録を紹介し,実際にその観測値(気温と気圧)を解析可能なデータにするための補正や均質化の方法について議論する.そして,19世紀の気象データからわかる当時の日本における気候の特徴について述べる.   2. 19世紀の日本における気象観測 (1) 函館・水戸・東京・横浜・大阪・神戸・長崎での観測 長崎におけるオランダ人医師らによる気象観測は,当時の医学教育の一貫として学んだ気象学の影響があった.また,東京・大阪での日本人天文学者らによって行われた観測は蘭学の影響を受けていた.さらに,開国以降の函館・横浜・神戸でおこなわれた欧米人らの気象観測は,軍事的な要素が強い.水戸での気象観測は,穀物価格と天候の関係を見出すために,商人が自宅で気象観測を行っていた. (2) 灯台気象観測記録 1869年に日本初の洋式灯台が観音崎に建設され,その後次々と全国に灯台が建設され,同時に気象観測も行われるようになった.現在入手可能な観測記録は,日本の沿岸108ヶ所の灯台で観測された最長34年間の(1877~1910年)のデータで,気温(屋内外),気圧,風向・風力,降水量などが含まれている.   3. 補正と均質化 19世紀の気象観測記録のデータレスキューでは,気象庁データと比較するために,数値を電子ファイルに入力するだけでなく,様々な処理が必要である.例えば,現行の使用単位に換算し,単位を統一しなければならない.また,気圧の温度補正・重力補正・海面更正の必要の有無も検討する必要がある. さらに,観測地点の高度移動や,観測記録ごとに異なる観測回数・時刻などによって生じるデータ間の差を調整する均質化も重要である.均質化の方法は,手法や対象とする気象要素が様々であり,より有効な方法についての議論が続いている.   4. 19世紀の日本における気候の特徴 これまで収集した19世紀の気象観測記録は断片的ではあるが,19世紀の日本における気候の特徴が明らかになってきている.例えば,東京や水戸では1850年代~1870年代に温暖期の存在が認められた.加えて,1860年代の横浜の降水量記録からは,特に1868年の暖候期(6~9月)の降水量が顕著に多いことが報告されている.  今後は,古文書による気候復元結果との比較や,より多くの地点で観測が行われた灯台気象観測記録のデータを利用した天気図や台風経路復元などを予定している.

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