日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 514
会議情報

発表要旨
日常食生活の地理学的アプローチ:日本の鶏肉を実例として
*シュレーガ ベンジャミン
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

1 初めに
先進国のフードシステムの背景には、産業型食品の増加に対し、安心感と質が高いブランド食品の増加もみられる。しかし、消費者にとってはブランド食品の中に圧倒的多数の選択肢があることで、情報過剰で選択が困難という批判もある。さらに、食品の選択においては、溢れる情報に加えて消費者の時間、お金、関心などの限界もあるのであろう。
今までの地理学の食と農の研究の中では、前述のような対極化した先進国のフードシステムに関して、新自由主義の中で台頭してきた認定プロセス(neoliberal certification)や倫理的消費(ethical consumption)といった観点からの議論が盛んに行われてきた。本発表では、消費者の食品選択過程に着目し、日常食生活の地理的アプローチ(quotidian geographies of food)で日本の鶏肉について分析してみる

2 日常食生活の地理的アプローチ
ここでは、日常食生活の研究結果の中から主に三点について纏めたいと思う。まずは、Everts and Miele (2012) が食肉類の動物の愛護(animal welfare)に関して「どのように動物に関する問題意識は高まるか(もしくは問題としてみられないか)?」という問いを提案した。欧州におけるフォーカスグループを用いた調査では、一般的な消費者の関心は、動物愛護の観点よりも経済的な状況やその他の社会的要因により形作られているといってよいだろう。
Barnett et al. (2011) はフェアトレードに関して「日常的な買い物においていかに問題意識は高まるか」という問いを提案した。フェアトレードの場合では、NGO(非政府組織)の影響力を通して、一般的な消費者によるフェアトレードという選択肢が広がってくる。消費者の購入による支援でNGOへより強い影響を与え、政策を改善させる可能性が高まる点が挙げる。
また、Jackson (2015) の研究では産業型食品と共に社会不安 (social anxiety)が拡大してきたという点が議論されている。イギリスでフォーカスグループによるデータを通して鶏肉と社会不安の関係性を分析した。この食の不安を解決するように、消費者が買い物や食事の準備といった日常生活における活動や経験に頼ることが挙げられている。

3 日本の鶏肉
本研究では、各グループ3~6人のフォーカスグループ聞き取りに対する、複数回行い日本国内の鶏肉を取り巻く日常食生活について調査した。本調査に参加した一般的な消費者は鶏肉のブランドの定義に詳しくはないが、インターネットで簡単に調べられると感じている。多くの消費者が値段や部位、産地が国内・外であるかによって判断していることが観察された。さらに国産鶏肉の信頼性は高いが、ブラジル産の鶏肉よりも値段が高いことが意見として挙げられた。
鶏肉の購入に合わせて、様々な意見も見られた。例えば、食材の買い物と料理は女性の仕事という意見が一般的であるという意見や、また、都市と農村間では、都市には高級な地鶏肉の販売が割と多いという点も挙げられた。その背景として、農村において自給のために鶏を飼育する家庭が1970年代までは多く見られたが、現代ではわずかである。さらに、世代間の差異に関する議論も見られた。若年世代にとっては濃い味付けが好まれ、外食と中食を頻繁に購入するという意見がある。本発表ではこれらのフォーカスグループのデータ分析を通して明らかになった様々な消費者の食品購入における傾向に着目し、その結果について論じることで日本における鶏肉の消費について考察を行う。

4 文献
Barnett, C., P. Cloke, N. Clarke & A. Malpass. 2011. Globalizing Responsibility: The Political Rationalities of Ethical Consumption. Wiley-Blackwell.
Evans, A. & M. Miele (2012) Between food and flesh: how animals are made to matter (and not matter) within food consumption practices. Environment and planning D: society and space, 30, 298-314.
Jackson, P. 2015. Anxious Appetites: Food and Consumer Culture. Bloomsbury Publishing.  

著者関連情報
© 2017 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top