日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S1405
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発表要旨
黒潮文化圏における伝統的魚介類食の地域的展開
千葉県,高知県他を事例として
*中村 周作
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抄録

本発表では,黒潮文化圏における伝統的魚介類食について,主要ないくつかの県,たとえば千葉県,高知県他の具体的な事例をもとに,この圏域の飲食文化にみられる地域的共通性と特異性について考察を試みる。研究方法として,文献等より抽出した各地の伝統的魚介類食に関して,食材他諸要素の分析を通じて地域的共通性と特異性を見出す。さらに,各地の主要な伝統食および,それらに関するイベントなどの実地観察調査の成果を紹介する。

2015(平成27)年の都道府県別魚種別漁獲量(属人)統計より,主な県になじみ深い魚種をあげる。千葉県では,生産量の多い順にサバ類(県全量比の32.4%),イワシ類(同31.8%),ブリ類(9.7%)の他,スズキ類が全国1位,コノシロ全国2位,貝類が全国3位の生産をあげている。一方,高知県では,カツオ類(28.4%),マグロ類(24.4%),イワシ類(21.4%)の他,カジキ類が全国2位となっている。この他の主要な漁業県をみると,静岡県では,カツオ類(39.5%),サバ類(27.8%),マグロ類(14.8%),イワシ類(18.5%)の他,貝類が全国4位である。三重県では,イワシ類(42.6%),サバ類(17.4%),カツオ類(17.1%),マグロ類(9.7%)の他,イサキが全国4位,イカナゴが5位である。和歌山県では,イワシ類(26.5%),サバ類(23.6%),アジ類(16.1%)の他,タチウオが全国3位である。宮崎県では,イワシ類(49.9%),マグロ類(15.1%),サバ類(12.0%),カツオ類(11.2%)となっている。これらは,属人統計ゆえに厳密に言えば地産魚介ではないし,今日の全国流通の中にあっては,これらが地元で食べられているとは言いがたいが,少なくとも各地において,馴染みの深い料理(食材)であるということができる。

農文協『日本の食生活全集』(全50巻)は,昭和初期に各地で食べられていた食に関する聞き書きをまとめたものである。本シリーズ中に魚介類料理が,のべ2,888品目あげられている。主な県についてみると,千葉県では,計101品目記載された中,食材としてはイワシ(掲載数15),アサリ9など,静岡県では,64品目中ボラ10,カツオ6など,三重県では,57品目中イワシ7,サンマ6など,和歌山県では95品目中カツオ10,クジラ9など,高知県では57品目中サバ5,カツオ,ソウダガツオ,マグロ,アユ(各4)など,宮崎県では44品目中イワシ5,アジ5などが出てくる。こうしてみると,イワシ,カツオ,サバ,アジが濃淡はあるもののほぼ全域,サンマが和歌山以東など広域で食されるのに対し,局所的に出てくるのが静岡のイルカ3,和歌山のクジラ,高知のマンボウ,ウミガメ,宮崎の棒ダラ,ムカデノリなどであった。次に,複数県にまたがって出てくる料理数を各県別にあげると,和歌山県18,高知県16,静岡県13,千葉県12,三重県11,宮崎県10となる。黒潮にのって西へ東へと移動しつつ,各地に定着した紀州漁民が伝えた料理の多いことが推測される。主な料理としては,「ドジョウ汁」(5県),「イワシなどのつみれ」,「カツオの塩辛」,「アサリ飯・味噌汁」(各4県),「サバずし」,「サンマずし」,「アユのせごし」,「カニ巻き汁」(各3県)などが出てくる。

最後に,発表者が,今まで取り組んできた宮崎県の「こなます」,「ムカデノリ」,「棒ダラの煮付け」,「塩クジラの麦がゆ」他,高知県の「やえこ」他,千葉県のカツオ料理他の伝統的魚介料理の実地・実食調査の成果を紹介する。





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