抄録
1.はじめに 近年の衛星を用いた計測によって地震時変位が広域に,かつ面的に捉えられるようになってきた.特に干渉SARが面的な変位を捉えるには効果的であり,数多くの地震に対して適用されてきた(Massonnet et al., 1993など).最近では,国内で内陸地震が発生した際には早急に干渉SARの成果が国土地理院によって公表され,地震断層の分布や変位量分布を把握するのに役立っている(2014年長野県北部の地震,2016年熊本地震など).ただし,それら衛星を用いた計測では,断層近傍や変位量の大きな部分の詳細な変位量の把握は難しく,現在でも現地計測のデータが持つ価値は大きい.一方,現地計測で断層変位を計測する際には,狭い範囲の計測になるため,長波長の変形(撓曲変形など)は過小評価につながる.そのような中で,LiDAR差分解析は衛星による計測と現地計測の間を埋める空間スケールの情報が高精度に得られ,近年の内陸地震に伴う変位を捉えることに成功している(品川ほか,2013;Nissen et al., 2014).
2.手法 本研究では,LiDAR差分解析(Mukoyama et al., 2011;品川ほか,2013)を2014年長野県北部の地震に適用した.本研究では2013年11月と2015年10月に計測された2時期のLiDARデータを用いて解析を行い,約2年間に生じた変位の3成分(上下・東西・南北)を明らかにした.既存の現地調査結果(Okada et al., 2015)に解析結果を加えて,詳細な断層位置と変位量分布の把握を行い,断層のセグメントおよび浅部地下構造に関する考察を行った.
3.神城断層と2014年長野県北部の地震 対象地域に分布する神城断層は,全長26 kmの東傾斜の逆断層であり,2014年にはその一部が活動した.地表地震断層(以下,地震断層)は,いずれの報告(勝部ほか,2014;Okada et al., 2015; Lin et al., 2015など)でも9 km程度であり,主に既存の活断層線沿いに現れた.現地調査に基づく変位量は,いずれの研究でも最大で1 m前後の上下変位が塩島付近で認められており,南部にかけて変位量が減少する傾向を示す.
4.解析結果および考察 本解析結果から,地表に現れた地震断層は複雑に分布し,その分布形態と変位量分布から少なくとも2つのセグメントに分けられることが明らかとなった.地震断層分布は,Okada et al.(2015)の報告とほぼ同様であった.また,地震直後の調査で地震断層が不明瞭であった部分では,本解析結果を用いて地震断層出現地点を推定し,現地にて確認した.それらついて以下に述べる.北端部に位置する城山では,地震断層の通過位置が不明であったが,明瞭な上下変位が城山の西部を取り巻くように解析結果に現れ,この位置に地震断層が推定される.蕨平〜飯森の間では,姫川右岸の丘陵部と段丘の境界付近に大きな水平短縮が生じており,この部分に地震断層が出現したと考えられる.この地点は大塚(2014)などで報告されている地点であり,筆者らも現地にて地震断層を確認した.飯森と飯田の間では,姫川右岸の丘陵部と低地の境界に1 m弱の上下変位が解析結果から得られ,現地にて地震断層を確認した. 上下変位量は,城山〜蕨平と蕨平の南部〜堀之内にかけて2つの山型の分布を示すことが新たにわかった.北部で最大1.3 m,南部で最大約1.0 mの上下変位量を示す.これらは地震断層の平面分布形態とも対応し,地下浅部では少なくとも北部と南部で異なる断層を利用し,地表に変位が達したと考えられる.水平成分については,地震断層に直交成分と平行成分に分離した結果,地震断層を挟んだ短縮は最大1.4〜1.6 m,左横ずれは最大0.6〜0.8 mという値が得られた.また,これらの変位量分布は,地球物理学的に求められた断層モデルのすべり分布との対応が良く,すべり量の大きな部分を捉えることにも成功したと言える.