日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P013
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発表要旨
巨摩山地・櫛形山東麓の地すべり地に形成された古湖沼の形成史
*太田 凌嘉苅谷 愛彦
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抄録
はじめに
 巨摩山地・櫛形山東面の山梨県南アルプス市高尾から富士川町平林には,南北走向かつ幅1~1.5 km の凹地帯が発達する.この凹地帯は地すべり堆積物や湖成堆積物に埋積され,湖成堆積物には御岳第1 テフラ(On-Pm1;100 ka)と給源不明のテフラ(軽石)が介在する1).本研究では新たな地表踏査に加え,On-Pm1 の上位に介在するテフラの同定も試みることによって当地域における古湖沼の形成史と古地理を復元した.
地域・方法
[地形・地質]
 凹地帯を埋める地すべり堆積物は新・旧に区分される1).いずれも角礫を主とする淘汰不良の岩屑で,それらの供給源と目される滑落崖が凹地帯の西方に複数見られる.深沢川と高室川が凹地帯を東流し,それらの渓岸には段丘面が狭小に分布する.また侵食小起伏面状の地形(高位平坦面)が凹地帯の東部に断片的に認められる.基盤岩は新第三系櫛形山層群・桃の木層群(火山砕屑岩・堆積岩類)から成る.
[方法]
 空中写真とDEM傾斜量図・陰影図を用いた地形判読,および地表踏査を主とした.テフラの同定は層相や層厚,鉱物組成に基づき,既存研究2-4)を参考にして総合的に行った.
結果
 湖成堆積物は7 地点で確認された(地点1,2b,2c,5a,5b,6b,7).既報1)のとおり,湖成堆積物は古期地すべり堆積物を整合に覆い,新期地すべり堆積物に整合に覆われる.湖成堆積物は主に泥炭とシルト,礫質シルトから成る.湖成堆積物の上・下限が十分確認できていないため層厚は未確定であるが,16 m 以上の地点(地点7)がある.湖成堆積物の分布高度は場所により異なり,大きく3 つに分かれる.すなわち高尾では830 m 前後(地点1)と840 m前後(2b,2c),立沼では855~900 m 前後(5a,5b,6b,7)である.湖成堆積物に含まれるOn-Pm1 の上位のテフラは発泡のよい黄橙~灰白色細粒軽石を主とし,斜方輝石の斑晶に富む.層厚(9〜50 cm)や既往研究が示した分布主軸からみて,本テフラは御岳伊那(On-In;90 ka)2)と判断される.なお深沢川左岸の低位段丘面構成層上部には姶良Tn テフラ(30 ka,地点4)が挟在する1,5).また立沼東方(地点6a)の高位平坦面上には基盤岩を覆う風成火山灰土が載る.この風成火山灰土はOn-Pm1 を含む.
考察
 当地域における古湖沼形成史・古地理は次のように復元される.(1)凹地帯は古期地すべり堆積物により埋積された.ただし古期地すべり堆積物が当初どの程度の広がりを有していたのかは不明である.(2)次に,古期地すべり堆積物の上面に湖沼(水域)が発生し,湖成堆積物が生じた.湖成堆積物の分布高度が場所ごとに異なる事実は,図の範囲内において独立した3 つの古湖沼が生じていた可能性を示唆する.特に,高尾の地点1 と同2a との間には基盤岩から成る東西性の尾根状地形があり,これにより古湖沼は隔てられていたと考えられる.ただし,後発的・局所的な二次地すべりにより湖成堆積物が変位している可能性には注意すべきである.(3)On-Pm1 降下期,立沼の東には小起伏な乾陸が存在した.高尾についても同様と考えられる.(4)湖成堆積物とOn-Pm1,On-In との関係から,古湖沼が100~90 ka を中心とする10 ky 以上存在したのは確かである.湖成堆積物を成す泥炭の花粉分析から,湖成堆積物の一部は酸素同位体ステージ5d または6 に相当する可能性がある1).(5)古湖沼は新期地すべり堆積物や周辺から流入した岩屑で埋積された.その時期は90 ka 以降であるが,さらに検討する必要がある.
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© 2017 公益社団法人 日本地理学会
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