日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 701
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発表要旨
ネパール地震に伴うトレッキングルートの被災状況
ゴサインクンドとヘランブーの状況
*渡辺 和之
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抄録
2015年4月と5月のネパール地震は中部ネパールに大きな被害をもたらした。なかでもランタン国立公園のあるラスワ郡とシンドゥパルチョーク郡は被害が多く、ランタン谷では地震に伴う雪崩で200人以上が行方不明となった。
発表者は、トレッキングルートの被災状況を把握するため、2015年9月にラスワ郡のゴサインクンドとシンドゥパルチョーク郡のヘランブーを訪れた。当時、ランタン谷は登山道が通行止めで、住民は域外に避難している状態だった。発表では、見聞した情報を報告し、課題を指摘したい。
まず、シャブルベシにゆくバス道路は問題なく通行できた。ドゥンチェでは道路沿いの建物は大きな被害は見られないが、町外れにはテントの避難村ができていた。シャブルベシの町は道路沿いのコンクリートの建物は一部崩壊程度だが、どのホテルもひび割れで改装中であった。
ゴサインクンドへ行く道でもっとも被害がひどかったのがトゥーロ・シャブルである。コンクリートの2-3階建ての家が密集し、将棋倒しになった。地震の前に営業していた13のホテルのうち、崩壊を免れたのは1つだけである。
ただし、被害は村によってまちまちである。尾根の北側のティプリンガラでは半壊した石積みの家を多く見たが、尾根上のシンゴンパ、チェランパティは石垣が崩れた程度の被害で済んでいる。ただし、尾根を登ったラウレビナでは石積みのホテルや仏塔が崩壊した所もあった。ゴサインクンドの石積みのホテルは改修すれば営業できるとのことである。
ホテルを失った住民は、もう石では作らないと言っていた。ただし、問題は資金である。ここでは建物の再建費用に加えて国立公園に支払う借地料がある。たとえば、2014年3月の段階でゴサインクンドなどのA地区は13万ルピー、チャランパティなどB地区は9万ルピーを、各ホテル経営者は国立公園局に毎年支払わねばならない(1ルピーは約1.1円)。再建してもしばらくは観光客が来ないのではないか、数年はこれを免除して欲しいとのことであった。ネパール政府は家を失った被災世帯に対し、20万ルピーを支給することになっているが、当時住民が受け取ったのは1.5万ルピーの仮払金だけである。海外からの援助では、日本やドイツなどの物資や現金が村に届いている。なかにはツイッターで自分の家の崩壊した写真をアップして義援金をもらい、カトマンズに家を建てた人もいる。また、ある人は以前来た外国人が送ったお金を、村に届けたとの美談もある。
ヘランブー側は家屋の形状を残している家は非常に少なかった。バスの終点のティンブにはカナダの援助でできた仮設キャンプに周囲の村々から生徒が寄宿生活をしていたが、食糧代を出してくれるとことがないという。またカカニの小学校も仮設テントで授業をしていたが、黒板などの設備がないという。タルケギャンでは寺院を含めほぼすべての家が全壊し、がれきが山積していた。あるホテル経営者は、自分の家の廃材で仮設住宅を作り住んでいた。出稼ぎで貯めた700万ルピーで建てたホテルを1シーズンで失った。借金がなかったのが幸いだったという。
以上のように、両地域は多くの被害が出ている。特にヘランブーでは多くの援助が来たにもかかわらず、足りていなかった。ただ、両地域は良くも悪くも観光地である。震災復興には公助、共助、自助が必要だが、ネパールのように公助が十分でない国でも、それを補ってあまりある外国援助が来ることが予想できる。
また、被災状況は地域によっても世帯によっても異なる。援助の地域格差や自助と共助の負担区分や割合については、今後の課題である。自助については、今後、家の再建のために誰がどのように資金を負担するのか、どこに再建するのかなど、家族の意思決定に注目したい。今後、都市への移住がさらに加速する可能性もある。被害の思い地域ほど、誰がどこに住むのかとの意思決定が問題となろう。
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