日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 418
会議情報

発表要旨
船形山の大規模地すべり地における土塊の発達と湿地の形成
*佐々木 夏来須貝 俊彦
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
 山岳湿地は,希少種の生育場所として生態学的に重要な場所であるとされている.日本のような中緯度湿潤変動帯においては,山岳湿地の重要な成因の一つとして,地すべりが挙げられる.特に奥羽山脈の第四紀火山は,大規模地すべりによる山地の解体が進み,地すべり地には多数の湿地が形成されている.地すべり地形は,初生的な地すべり活動後も,断続的な滑動,副次的な地すべり,河川侵食などによって変化しており,地形変化は湿地発達にも大きく影響していると考えられる.しかし,発達史地形学的な視点に立った湿地研究はほとんど進んでいないのが現状である.
本研究では,船形山のすげ沼地すべり地を対象として,地すべり地形の発達が湿地に及ぼす影響について検討する.地すべりの微地形と湿地分布のを判読には,1976年に国土地理院が撮影したカラー空中写真および,落葉期の衛星画像を用いた.また,地すべり土塊の移動方向に列状に分布する小規模湿地の掘削調査を実施し,地すべり土塊の地形発達と湿地の特徴について検討した.
すげ沼地すべり地は船形山の北麓に位置し,西部は船形山溶岩流を,東部は段丘面を侵食している.初期の地すべり活動は34,500 yBP以前であり,1万年前以降にも地すべり活動があったことが報告されている.特に土塊の東部では滑落崖が南西-北東方向に直線的に延び,滑落崖に平行で比高の大きい分離崖や線状凹地が多数見られることから,地すべり形態は並進すべりであると判断できる.湿地は,地すべり土塊全体に広く分布し,規模の大きい湿地は滑落崖付近のブロック間の低地に形成されている.
すげ沼地すべり地東部の田谷地沼周辺では,土塊を開析する小河川の谷底に向けて,副次的な小規模地すべりが複数認められる.田谷地沼上流部の田谷地湿原は,小規模地すべりによる堰き止めで1600 yBP頃に形成されたことが報告されている.今回掘削した4湿地のうち,Fu-Dはこの小規模地すべり地の滑落崖下に形成されたものである.一方,Fu-A, B, Cは主滑落崖に平行する凹地内にあり,すげ沼地すべり地東部の地すべり土塊本体の運動に伴って形成された微地形が影響していると考えられる.堆積物の特徴もFu-Dと他の3つでは違いが見られた.Fu-Dは崩壊堆積部上に泥炭が堆積し,泥炭は植物遺骸の形態が残り多量の水分を含んでいた.一方で,他の湿地の泥炭層は分解がよく,硬く締まっていた.  安定した地形場・気候下に形成された湿地は,排水および埋積によって森林への遷移が予想される.しかし,大規模地すべり地においては,初生すべり後の副次的なすべりや、土塊の解体に伴って新たに湿地が形成されることによって,多様な生態系が長期にわたって維持されると考えられる. 
Fullsize Image
著者関連情報
© 2017 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top