日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 705
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発表要旨
モンゴルの牧民の馬乳酒製造法
モゴド郡における馬乳酒品評会とアンケート調査の結果
*森永 由紀土屋 竜太河合 隆行ツエレンプレブ バトユン高槻 成紀田村 憲司浅野 眞希竹内 菜穂子遠藤 一樹石井 智美
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抄録

1.はじめに 馬乳酒はモンゴル民族の伝統的健康飲料で、効能は古くから知られる。20世紀にモンゴル民族の定住化が進み伝統的製造法が急速にすたれたが、モンゴル国中央部には今も馬乳酒を自家生産するゲルが多く残る。保存がきく上に栄養価が高まる発酵食品の継承は、伝統文化のみならず微生物の多様性を守るためにも意義がある。また、良質な馬乳酒の生産はカシミアと肉の売却に依存する地方の牧民に収入の機会をもたらし経済振興にもつながる為、その製造法の検証には牧民も高い関心を抱く。本研究では、試料収集を主目的にボルガン県の名産地で馬乳酒品評会を開いた。同時に実施したアンケート調査の結果とあわせて報告する。

2.調査地域、品評会とアンケートの概要  調査地域は、馬乳酒の全国的名産地の一つであるモンゴル国北部ボルガン県モゴド郡(人口2655名、面積282.0km2、2013年)で、植生帯は森林草原と草原の境に属する。筆者らは馬乳酒試料の収集を主目的に2016年8月5日に現地で馬乳酒品評会を開催し、5名の審査員により評価を行った。併せて、参加した51戸の牧民を対象にアンケートを行った。牧民が馬乳酒製造の際に重視している項目は上位から人手、酵母、技術、草の量、容器の種類、天候、草の種類、水、ミネラル、雌馬等なので(Batoyun et al.,2015)、これらについて質問した。

3. 結果  図1に参加者のゲルの位置を示す。記号は馬乳酒の評価点の中央値で、モゴド郡の中央の南北の谷沿いに高い評価を得たゲルがみられる。アンケートへの回答者の平均年齢は45.7歳で、家族の平均人数は4.6人、作業に従事する平均人数は2.5人で、搾乳する牝ウマの数は平均23.8頭である。
馬乳酒は多くの家庭で6-9月にかけて盛んに作られる。日中数時間おきに搾乳を繰り返し、イーストを入れた容器に馬乳を冷ましてから投入し、数時間にわたって棒で撹拌し、一晩静置すると翌朝には出来上がる。一日の平均搾乳回数は7回、一回の平均搾乳量は26.8ℓ、平均撹拌時間は夏に4.3時間、秋に3.5時間であり、牧民は馬乳酒製造に多大なエネルギーを注いでいることがわかる。

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