日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P031
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発表要旨
19世紀後半~20世紀前半のマニラにおける降水の季節変化特性
*赤坂 郁美財城 真寿美久保田 尚之松本 淳
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抄録

近年、将来の気候変化やこれに伴う異常気象及び自然災害の発生に備えるために、各地における過去の気候変化とその要因を明らかにすることが必要とされている。そのためには出来るだけ長期の気象観測データが必要となるが、東南アジア地域では1950年以前の気象観測は旧宗主国によって行われていた場合が多く、この時代のデータは整備されていないことが多い。本研究で対象とするフィリピンにおいても1865年にスペインから渡来したイエズス会士がマニラで観測を開始し、20世紀初めにそれが米国に引き継がれた。これらのデータ(紙資料)はフィリピン以外の国に散逸していたが、近年のデータレスキュープロジェクトにより徐々に収集が進んでいる(赤坂,2014)。そこで本研究では、これらのデータの中からとくに長期の気象データが得られるマニラを対象とし、20世紀前半以前の降水の季節変化特性を明らかにする。   2. 使用データ及び解析方法 使用データは、日本の気象庁図書室やイギリス気象局等で著者らが紙媒体で収集した日降水量データを電子化したものである。本研究ではデータを得ることができた1868年1月~1940年12月までを対象期間とした(数年の欠測年を含む)。ただし1883年7月~1888年12月はチャート式の気象観測資料しか収集できなかったため、これを使用した。チャートには日単位より細かい時間分解能で降水量が示されているため、ここから値を読み取り、日降水量単位に編集した。次に、Algue (1903)に示されている1865-1902年の月降水量及び月降水日数の一覧(以下、月降水表)との差を算出して整合性を検証した。結果として、チャートに基づき編集した日降水量データから算出した月降水量・降水日数と月降水表との値の相関係数はそれぞれ0.985と0.996であった。そのため、この期間のデータは他の月よりもデータの読み取り誤差を含む可能性はあるものの、解析に使用できる精度を有していると判断した。 次に、マニラの季節変化特性とその変化傾向を考察するために、雨季入り・雨季明け時期を定義した。マニラでは雨季・乾季のはっきりした降水の季節変化がみられるため、予備解析的に、4月以降(19半旬以降)の半旬降水量が25mm以上(以下)となった最初(最後)の半旬を雨季入り(雨季明け)とした。半旬降水量25mmはおよそ対象年全ての平均半旬降水量に対応する。   3. 結果と考察 1868~1940年のマニラにおける降水の季節進行パターンを図1に示す。この期間の雨季入りの平均は約26.8半旬(5月上旬頃)、雨季明けの平均は約64半旬(11月中旬頃)であった。雨季入りと雨季明けが定義できた年については雨季の持続期間も算出した。雨期の持続期間の平均は約40.4半旬(約200日)であった。図1から1914~1940年はそれ以前と比較して平均的な雨季入りが約2半旬ほど早い傾向にあることがわかった。またこの期間には60半旬(10月下旬)よりも早く雨季が明ける年がみられず、1914年以前よりも雨季明けが20日間前後遅くなっていた。20世紀後半以降(1950-2012年)と比較しても15日間ほど雨季の期間が長い傾向にあることもわかった(図略)。これらのマニラにおける降水の季節変化特性は、南西モンスーンの開始・終了、北東モンスーンの開始と関連しているため、今後は19世紀後半以降のアジア夏季モンスーン変動との関係を明らかにしたい。

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