日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P059
会議情報

発表要旨
チリ共和国における先住民マプチェの漁業:
第8・10州の事例
*横山 貴史
著者情報
キーワード: 漁業, マプチェ, 先住民, チリ
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

1.はじめに  チリ共和国における先住民族マプチェは、主としてチリ中・南部に居住しており、現在チリ国内には約60万人がいるとされる(北野2010)。そのマプチェに関しては、歴史や政治状況などについての研究は蓄積されているが、現在の彼らの生業に関する研究はほとんどなされていない。また、マプチェは農業に従事しているという説明はよくされるが、彼らが漁業に従事しているという点はほとんど知られていない。多くの沿岸国における先住民漁業と同様に、マプチェの漁業活動はチリの漁業統計に反映されておらず、チリの漁業資源管理を考えていくうえでは、現地での観察や調査に基づく把握が不可欠である。  本発表では、チリ共和国における先住民漁業をめぐる状況を踏まえ、第8州と第10州の漁業者の事例から、チリの先住民漁業の一端を明らかにしたい。   2.チリにおける地域拠点型漁業管理と先住民漁業  チリでは、1997年に小規模漁業者(Artesanal Fishermen)の強化と沿岸漁業資源管理を目的として導入された「Management and Exploitation Areas for Benthic Resources(スペイン語ではArea de Manejo)(以下、AMEBR)」と呼ばれる制度が導入され、小規模漁業者の保護がなされている。AMEBRは底棲資源の持続的な利用のために、小規模漁業者の組織が排他的に利用することができる漁場を意味する。免許にあたっては、漁業者組織を単位としており、特定の魚種ごとに設定される。さらに、科学的知見をもとに漁獲可能量を定めるほか、漁業者は登録され厳密に管理される(Oliva et al 2006)。  しかし、チリにおけるマプチェの漁業者が漁業を行う際には、組織化してAMEBRを受けるということはほとんどみられない。一方で、近年では先住民の権利が認められつつあり、それぞれの地域で先住民コミュニテイに優先的に利用することのできる漁場が設定されている。例えば、2008年にはConvenio Numero 169(Sobre Pueblos Indigenas y Tribales en Pais Independientes)、2009年にはLey Numero 20.249(Crea el Espacio Costero Marino de los Pueblos Originarios)が制定され、先住民の漁場利用の権利が認められつつある。  2015年9月に行った現地調査では、第10州(ロスラゴス州)calbuco、第8州(ビオビオ州)Huentelorenにおいてマプチェの漁業者に対し聞き取り調査を行った。いずれも、漁業は仲買人や市場出荷などを目的としたものではなく、自家消費を主としたものであった。また、漁業に加えて、自家消費を目的とした農業と牧畜業を組み合わせた半農半漁形態であった。第8州では、馬を使った地引網というユニークな形態の漁が行われており、マプチェの漁業文化としても象徴的であった。  当日は、実際の現地の写真などを交え、チリの先住民漁業の一端を報告したい。

著者関連情報
© 2017 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top