日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S0303
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発表要旨
国連地名標準化会議の動向
*渡辺 浩平
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抄録

1.はじめに
 報告者は第10回国連地名標準化会議(UNCSGN, 2012年)と第29回国連地名専門家グループ会合(UNGEGN,
2016)、ならびにUNGEGNエキゾニムWG会合に参加する機会を得たので、それについて報告する。

1.1  UNCSGN/UNGEGNとは
 UNCSGNとUNGEGNは1967年に発足し、国連経済社会委員会統計部の下におかれている。国連発足当初から、各国の国内地名の標準化と非アルファベット表記のローマ字転記法の標準化の必要性がとりざたされていたようである。地名に関する混乱や理解のずれがあれば、災害支援など国連の様々な活動に支障をきたす懸念が理由として上げられる。
 地名に関する決議は5年毎に開催されるCSGNで行われ、CSGNと同時開催および間の5年間に2度開催されるGEGNでは取組報告、事例報告、課題への勧告などを行う、という役割分担になっている。

1.2  UNCSGN決議
 10回のCSGNにおいて207の決議がなされている。次回会議の開催、WGやDivisionの創設など運営関連も多いが、特筆すべきものとして、国家地名当局の設立および地名集(gazetteer)の管理と公開の勧告、先住民族・少数民族の地名の尊重、商業的な地名の改変の不推奨、エキゾニム使用の削減などがあげられる。

1.3  会議参加者
 各々の会議には各国の地理学/言語学等の研究者、地図当局、外交当局等が参加している(CSGNでは後2者が多い)。2016年GEGNでは180人の専門家の参加があった(49カ国8オブザーバ団体)。CSGNでは参加者は国を代表することになるが、GEGNではDivisionの代表という扱いである(言語や地域による区分。24あり、複数のDivisionに所属する国もある。日本はAsia East Division (other than China)に属する(韓国、北朝鮮、日本がメンバー))。それとは別にトピックごとに10のワーキンググループ(WG)があり、WGはGEGNの本セッションに加えて適宜会合を開いている。WGの参加者はほとんどが研究者であり、学会/研究会と同じ雰囲気である。議論の流れとしては、WGでの議論がGEGNで報告され、CSGNで決議になる、と言った感じである。
 CSGNやGEGNに提出され報告されたペーパーや決議はすべてウェブサイトhttp://unstats.un.org/unsd/geoinfo/ UNGEGN/ にて公開されている。また、直近のGEGN会議はyoutube上で生中継された(現在も録画を視聴可能)。

2.動向
2.1  第10回UNCSGN(ニューヨーク2012)
 基本的には各国の取り組みの進捗報告や、WGの活動報告が淡々と進められた。キリル文字のローマ字化の原則についてなど、若干論争になったものもあったが、そのなかで日本と韓国、北朝鮮との間で繰り広げられた日本海呼称に関連した複数の議題にわたる論戦は、異色の要素であった。

2.2  第29回UNGEGN(バンコク2016)
 会議開催サイクルの改変とUNGGIM(グローバル地理空間情報管理委員会)との連携強化が提案された。これは技術・行政主導化につながるとの懸念が示された。北アフリカ・サヘルDivisionの新設提案に対し、アラブDivisionが強く反対を表明した。日本が提出した「外国人に分かりやすい地図表現」の取組報告は、有用であると同時にエキゾニム使用を公認することでもあり、反響を呼んだ。

2.3  エキゾニムWG (コルフ2013, ザグレブ2015)
 最も活発に活動しているWGである。植民地地名の削減が意図でエキゾニム削減の決議がなされたと考えられるが、本WGにおいてはエキゾニムもそれを使用する言語圏の文化の一部として存在意義が強調されつつある。エンドニム/エキゾニム2元論についても疑問が呈されている。

3. 考察
 各言語におけるエキゾニムの存在意義や実用性が示される中、標準化とは何なのかという問いが生ずる。英語での呼称を標準とする議論は趣旨に反すると考える。その上、漢字文化圏においては表記を標準化するのか読みを標準化するのかという、表音文字圏では看過されがちな課題もある。

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