日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 412
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発表要旨
ケニア山,Tyndall氷河前面における土壌発達過程
*山縣 耕太郎
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抄録

氷河から解放された地点では,土壌の生成が開始する.異なる時代に解放された地点の土壌を比較することによって,土壌の発達過程を検討することができる.土壌は,その生成過程において,気候ばかりではなく,地形や地質,植生,水分条件など,様々な環境因子の影響を受ける.特に,植生とは相互に影響を及ぼしながら変化していく.土壌は,地域の生態系において重要な役割を果たし,植生変化の過程を考えるうえでも重要な要素となる. 本研究では,ケニア山Tyndall氷河において,完新世以降の温暖化に伴い縮小した氷河前面における土壌の生成過程を検討する.今回は,その準備段階として,氷河前面の地形区分と各地形単位上に見られる土壌の特徴把握を行った結果を報告する.  ケニア山は,ナイロビの北北東約150km,ほぼ赤道直下に位置する標高5,199mの山岳で,アフリカ第二の高峰であり、東アフリカ大地溝帯の形成が始まった約300万年前から形成された成層火山である. 山頂周辺は,氷期に強い氷食を受け,山腹には標高3000m付近までU字谷が放射状に刻まれている.山頂付近には,現在11の氷河が存在する.その中でTyndall氷河は,Lewis氷河についで2番目に大きな氷河であり,19世紀の終わり以降の変動がよく記録されている(水野,1994).  ケニア山における過去の氷河作用について,Baker(1967)は,ネオグラシエーションの氷河前進期を認め,ステージⅣとした.さらに,Mahaney(1984)は,このステージⅣを堆積物の地形的位置,風化の状態,土壌断面の特徴等から判断して,古い方からTyndall前進期とLewis前進期に区分した.Tyndall前進期のモレーンは,Tyndall氷河前面のみで認められる.さらに下方のTyndall氷河の谷とLewis氷河の谷が合流する付近には, LikiⅢ前進期のモレーンが認められる. それぞれの氷河前進期の年代については,堆積物中に含まれる有機物の14C年代からLikiⅢ前進期については晩氷期の約12,500年前,Tyndall前進期については約1,000年前と推定されている(Mahaney et al., 1989).しかし,今回の調査でTyndall期のモレーンはさらに5つの時期に区分されることが確かめられたので,1,000年前をさらに遡るものも含まれると考えられる.Lewis期のモレーンは,植生の被覆度や,岩礫を覆う地衣類の被覆度から,Tyndall期より明らかに新しいモレーンとして区別され,小氷期に形成されたものと考えられる(Mahaney et al., 1989).Lewis期のモレーンについても,さらに2時期に区分可能である.Tyndall氷河前面において,Lweis期のモレーンより上流側には,明瞭なモレーン地形は認められない.しかし,先行研究によって1919年から2011年までのいくつかの時期の氷河末端の位置が確認されている(Mizuno・Fujita,2013).  Tyndall氷河前面において,地形単位ごとにピットを作成して,土壌断面の観察を行った.それぞれモレーン上とモレーン間凹地にわけて観察を行った.  2015年調査時には,氷河末端から約17mの位置まで植物の侵入が確認された.しかし,その地点では,土壌層を認定することはできなかった.氷河から開放されて4年が経過した2011年の氷河末端位置では,植物はごくまばらに存在する程度で,その周辺に細粒物質がトラップされて堆積している層が厚さ2cm程度で確認された.しかし,この層に有機物はほとんど含まれていない.さらに18年経過した1997年の氷河末端付近では,表層に6~8cmの暗褐色で有機物に富むA層が確認された.さらにこれより古いLewis期のモレーン上では10~11cm,Tyndall期のモレーン上では10~33cm,LikiⅢ期のモレーンの上では33cmのA層の発達が確認された.Tyndall期の中では系統的な土壌層厚の変化は認められなかった.  これらの土壌層は,シルト粒子を主体として,下位の氷河成堆積物とは粒度組成が明瞭に異なることから,土壌層の生成には,風成粒子の堆積が寄与していると考えられる.各時期の土壌層厚から求められる土壌成長速度は,0.03mm/yrから4.4 mm/yrまでとかなり幅がある.また,同じ地形単位の上でも土壌層厚がばらつくことから,風成粒子の堆積,土壌層の成長には,植生の有無などの微細スケールの条件が影響しているものと考えられる.  

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