日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 715
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発表要旨
オープンプラットフォームによる日本の古地図オンラインの構築
*矢野 桂司鎌田 遼
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抄録


 本研究の目的は、国内外の図書館・博物館などが所蔵する日本で作製・出版された過去の地図・絵図などの古地図を、総合的・横断的にインターネット上で検索、閲覧、分析することができる、オープンソースによるWebGISベースでのポータルサイト『Japan Old Maps Online(仮)』を構築し、ボランタリーなクラウドソーシングを活用しながら、伝統的な人文学の「蛸壺的な」研究スタイルを、学際的・国際的な協働でのプロジェクト型研究に革新することにある。
 近年、人文学で扱う紙ベースの学術資料のデジタル化と、それらのによる公開が急速に進んでいる。日本においても、『国立国会図書館デジタルコレクション』がその代表で、国立国会図書館に所蔵されている多くの学術資料がデジタル化され、インターネット上に公開されている。その学術資料の中には、本研究が対象とする日本の地図・絵図などの古地図も含まれる。例えば、『国立国会図書館デジタルコレクション』には2,644件もの絵図が含まれている。この他、国土地理院の『古地図コレクション』(300件)をはじめ、東京都立図書館、国際日本文化センター、歴史民俗博物館、各大学図書館など多くの古地図を所蔵する機関が独自に公開を積極的に進めている。しかし、それらインターネット上に公開されたデジタル古地図を総合的・横断的に検索できる効果的なWebGISベースのポータルサイトは日本に存在していない。
 2000年代中葉から、伝統的な人文学においても、ICTを活用して学術資料のアーカイブ構築、文化コンテンツの分析、学術成果の公開や展示の方法などを、文系・理系の連携・融合・統合によって複数の研究者によるプロジェクト型の研究スタイルをもつデジタル・ヒューマニティーズが展開している。その中で、地理空間情報を扱う歴史GISは、人文学の空間的ターンとしての地理人文学(GeoHumanities)あるいは空間人文学(Spatial Humanities)などの人文学の新しい学問分野の形成において中心的な役割を果たしている。日本における歴史GIS、ひいては伝統的な人文学を、学際的・国際的な協働による新たなプロジェクト型の研究スタイルに飛躍的に展開させるためにも、その基礎資料となる日本の古地図を総合的に・横断的に検索し、さらにGIS分析を可能とするポータルサイトの構築が急務である。
 本研究が目標とする国内外に散在する日本の古地図のポータルサイトを構築するためには、大きく、1)ポータルサイトそのものを構築し運営するための基盤づくり(オープンソースによるシステム開発)と、2)そのポータルサイトに取り込む日本の古地図の情報収集(各機関が所蔵する地図目録とメタデータ、デジタル化、さらには権利関係の処理など)が必要となる。 まず、ポータルサイトのシステム開発に関しては、全てを新たに独自開発するのではなく、Harvard大学空間解析センター(CGA)のWorldMapを拡張したHarvard HypermapやMapWarperなどのオープンソースソフトウェアと、古地図を共有するための既存のプラットフォームであるOld Maps Online(OMO)などのコンテンツを活用し、日本の古地図に特化した多言語対応型のポータルサイトを構築する。
 本研究が対象とする日本の古地図は、基本的に、日本で作製され、日本を描いた紙地図である。時代的には、近世以前と近代のものを順に整備するが、最終的には、現在のボーンデジタルなものをも含めて運用できるものとする。
 前述したOMOには、すでに多くの地図が登録されているが、日本の古地図は必ずしも多くない。さらに、OMOに地図画像を提供している機関のすべての地図がデジタル化され、公開されているわけでもない。例えば、OMOに参加している大英博物館には約600件の日本の古地図があるが、それらは未だデジタル化されていないし、Harvard大学図書館が所蔵する122の日本の古地図のうちデジタル化され公開されているものは現時点で25件に過ぎない。また、UCB東アジア図書館が所蔵する三井コレクションの中には江戸時代から明治にかけての日本の古地図2,200件余りが含まれているが、デジタル化が完了しているものは800件で、今後、残りのデジタル化が必要である。ポータルサイトの構築の過程には、図書館・博物館の地図部門のキュレータと古地図を対象あるいは活用する研究者、そしてそれらをICT技術でつなぐ3者の協働でのプロジェクト型研究が必須で、このような国際的・学際的な協働は、伝統的な人文学を革新する原動力となる。

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