日本地理学会発表要旨集
2017年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 717
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発表要旨
EpiCollect+を用いたスマートフォンによる野外調査の実践
*湯田 ミノリ
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抄録

1.調査の目的
地理情報システム(GIS)の普及とスマートフォンやインターネットの普及により、野外調査の形が、変化しつつある。これまで現地で地図とフィールド・ノートに記録し、後にデータ入力を行い、GISを用いてデータを統合、分析していた情報は、スマートフォンの登場により、その場でデジタル情報として収集するというように、これまでのデータ収集と入力のプロセスの簡略化を可能にした。これは、特に地理学を専門としない学生にとっても、作業の簡素化、そして身近な道具を用いてできるという点において野外調査に対する抵抗を減らし、興味関心を引くものと思われる。 これを実現するためには、地域調査の内容に応じて質問内容や地図の表示をカスタマイズできるデータ収集アプリケーションが必要である。こうしたアプリケーションはいくつか存在するが、有料や、収集したデータがほかの形式でエクスポートできないなどの問題があった。そこで本研究では、無料でかつ設問も自由に設定可能なスマートフォン・アプリケーション「EpiCollect+」を用い、福岡市天神地区で野外調査を実施した。

2.アプリケーションの概要
本研究で使用したのは、Imperial College Londonの開発したシステムである「EpiCollect+」である。このシステムは、PCおよびiPhone, Androidのスマートフォンで利用可能であり、収取したデータの修正等の管理は、PC上でも可能というものである(http://www.epicollect.net/)。
入力画面のデザインは、EpiCollect+のサイトで、プロジェクトを作成すると、収集したいデータに合わせた入力フォームのデザイン画面になり、テキスト、数字、ドロップダウンリスト、チェックボックス、位置、写真など、ドラッグアンドドロップで組み合わせて入力画面を作成することができる。  入力したデータは、プロジェクトのページから閲覧が可能であり、その場で、地図上で入力の進捗状況の確認も可能である。またこうしたデータはエクスポートが可能である。

3.野外調査の概要
野外調査は、2017年12月10日、福岡市天神地区において、福岡女子大学の学生12人で実施した。調査のテーマは、バリアフリーの観点から見た、対象地域内の評価とし、道路や交通機関、建物の入り口などを評価することを目的とし、学生を2名ずつのグループに分け、各グループに割り当てたエリアで情報を収集した。
アプリケーションは、事前各自のスマートフォンへのインストールの指示は与えていたが、使い方や調査時の注意など説明は当日30分ほどしたのみで、60分ほど野外調査を実施した。その後、大学に戻ってから、PCでEpiCollect+のサイト上でデータの確認・修正をした。学生には、最終的に出来上がった地図の考察とともに、アプリケーションを利用した感想に関するアンケートを実施した。

4.結果  
野外調査の参加者の全員が、各自スマートフォンを有していたこともあり、アプリケーションの操作もスムーズに行われていた。調査後の感想でも、GPSの取得した位置情報が地図からずれていた困難を指摘する意見も見られたものの、アプリケーションの操作は簡単で、手軽に調査できたという肯定的な意見が多くみられた。
プロジェクトの地図のページは、随時参照するよう指示をしていたが、学生のほとんどが、自分のチームの入力内容の確認や他のチームの進捗確認のために見ており、そうしたデータの即時性と可視化が調査を楽しむ要因となっていた。
  野外調査に対するイメージは、実施前と比較すると、実施後は向上し、データ更新の即時性や、簡単な操作により、野外調査に親しみを覚え、結果も楽しみながら調査を行っていた。また、学生からの調査結果の考察も的確なものが多かった。したがって、本アプリケーションの活用は、調査の準備、調査中、調査後の負担を減らしつつ、高い効果をもたらす結果となったといえよう。

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