日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 716
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発表要旨
東京都杉並区高円寺駅周辺商店街の発達・変化と若者の街化のプロセス
*木谷 隆太郎
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抄録

1.はじめに

地理学における基本的概念の1つに空間的機能分化がある.これを商業地研究に応用した事例として松澤(1986)は,東京の副都心レベルの商業地で空間的機能分化の実態を示した.こうした空間的機能分化は商圏の広い大規模商業地で起こるとされており,中小規模の商業地では研究がされてこなかった.また,1980年代以降の商業地研究では,若者の集まる新たな盛り場としての「若者の街」研究が行われてきたものの,商店主や来街者への聞き取り,メディア分析等を中心として行われており,個々の店舗の具体的な動向から,どのような過程で若者の街が形成されたのかについては明らかにされていない。

そこで本研究では,高円寺駅前周辺商店街を対象とし,商業地の発達と内部構造の変化,それに伴って生じた空間的機能分化のプロセスを若者の街化に着目し,1940年から2015年にかけての小売店の業種構成や店舗分布等から空間的・実証的に明らかにすることを目的とした.

2.研究方法

高円寺駅周辺商店街の一般消費者向けの全店舗・全業種を調査対象とし,業種別店舗数の推移や業種別店舗分布図から高円寺における空間的機能分化の過程を分析した.また,特に店舗数の増減が著しい業種や,古着店・雑貨店等の若者向け店舗については,個々に店舗数の推移や分布傾向をみることで,そうした分布に至るプロセスを分析した.調査年度は,1940年,1949年,1978年,1992年,2002年,2015年の6つの年代とした.

3.結果

業種構成の推移では,1980年代を境に従来の商店街の中心であった飲食料品小売店が減少し,その一方で飲食サービス業や理容・美容業,生活関連サービス業が増加した.1990年代からは古着店や雑貨店といった若者向け小売店が急増した.  

店舗分布では,1940年と1949年には飲食店街と最寄型商店街の2パターンへの分化がみられたが,1978年には映画館やロック喫茶・ライブハウス等の歓楽街的機能を持つ地区と最寄型商店街の2パターンへの分化,2015年には最寄型商店街,飲食店街,古着店・雑貨店・カフェ,エスニック料理店等の若者向け飲食店,美容室の集積する地区の5パターンへと空間的機能分化をした.

こうした空間的機能分化の背景として,戦前の1940年には最寄型商店街と映画館を核とした歓楽街が存在したものの,戦後の1949年には駅前の小規模な歓楽街とその周辺の最寄型商店街という構造となった.しかし,1960年代以降,映画館の開業や若者の増加等の影響で歓楽街が成長し,そこには若者向け業種が集積していった.1978年には最寄型商店街,歓楽街,ロック喫茶等の若者向け業種の集積という3つの特徴がみられ,このうち若者向け業種は歓楽街とほぼ同様の立地を示した.

 1980年代以降は映画館の閉館により歓楽街の核が無くなり,歓楽街的機能が減少した。1990年代以降は従来の飲食料品小売店等の最寄型商店街の機能がスーパーマーケットによって担われ,飲食料品小売店が減少した。しかし,そうした店舗を衣料品小売店や飲食店が置き換えていくことで商店街の入れ替わりが生じた.一方,1990年代以降は古着店や雑貨店,アジア料理店やカフェ,美容院等が増え始め,そうした新たな若者向け業種は歓楽街的な性格の強かった高円寺駅南西の地域に集積をしはじめ,2000年代以降は,商店街の中でも店舗数が減少しつつある駅から離れた地区で集積したことが明らかとなった。

高円寺では,戦後から1970年代にかけては音楽の街,1990年代以降は古着の街という個性を獲得し,発達・変化を続けたが,そうした街の変化には,商店街の歓楽街化や最寄型商店街の入れ替わり,“若者の街化”といったことが大きく関わっており,それが高円寺の空間的機能分化を促していった。

参考文献

下村恭広 2011. 東京・高円寺における古着小売店の集積.日本都市社会学会年報 29:77-91.

松澤光雄 1986.『繁華街を歩く 東京編』綜合ユニコム.

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