日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 521
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発表要旨
暖候期の高知・岡山間の気候学的な降水量差に寄与する日々の降水や大気場に関する解析(瀬戸内式気候に関連して)
*加藤 内藏進杉村 裕貴松本 健吾大谷 和男
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抄録

1.はじめに
瀬戸内地域では,冬季には山陰に比べて,夏季には四国太平洋側に比べて降水量が少ない。これは,卓越風と地形との位置関係にも対応して,瀬戸内式気候としても知られている (福井 1933)。しかし,例えば日本列島での梅雨期の総降水量の東西差は,季節進行の中での基本場の空間構造を反映した大雨日の頻度の地域差を大きく反映しており(Ninomiya and Mizuno 1987),瀬戸内式気候に関連した暖候期の降水量の地域差やその長期変動の理解の際にも,このような視点が重要と考える。また,日々の総観場の中での地形の役割や,総観規模システムの構造としての降水コントラスト等も,季節的多様性は大きい。
加藤(2007,地域地理研究, 12, 1-16)は,瀬戸内式気候に関連してそのような観点から,太平洋側の高知から瀬戸内側の岡山を引いた降水量差(以下,ΔPRと呼ぶ)について解析を行った。その結果,8月から9月にかけての気候学的なΔPRは,ΔPR≧50㎜/dayの日の寄与を大きく反映する一方,4月から5月にかけては,0~50㎜/dayの日の寄与も大きい事を示した。 しかし,加藤(2007)は,それらに関わる日々の現象の気候学的特徴や季節性に関する吟味が不十分であった。
そこで本研究では,加藤(2007)と同様に,高知と岡山について,ΔPRの大きい日の寄与やその時の大気場の特徴,季節的違い等に関する解析を行った。解析には,1985~2015年における各気象官署の日降水量と時間降水量データ(気象庁本庁のHP),NCEP/NCAE再解析データ(2.5°×2.5°の格子点間隔),気象庁作成のミニチュア天気図(各日09JST)等を使用した。

2.高知と岡山との降水量差に関わるΔPRの大きな日の寄与
第1図に示されるように,ほぼ暖候期を通じて大きなトータルΔPRを示した。それに対する日々のΔPR≧50mm/dayやΔPR≧100㎜/dayの寄与は8.9月には特に大きかったが、4,5月でも決して小さくなく,ΔPR≧30㎜/dayの日による寄与は4,5月でも気候学的なΔPRの8割程度を占めていた。なお,図は略すが,これらの日々の大きなΔPRは,高知側で日降水量50mmを越えるような日の出現をかなり反映していた。

3.ΔPR≧30mm/dayの日における時間降水量の寄与や大気場の特徴(8月・9月と4月・5月)
31年間のデータからΔPR≧30mm/dayの日を抽出し,高知や岡山での降水の特徴を1時間降水量に基づき記述するとともに,状況毎に大気場の合成解析を行った。
盛夏期の8月での大きなΔPRの日には,高知側で時間10mmを超える雨の寄与が大きく,また,高温多湿で大変不安定な空気が四国の山を越える総観場が多かった。但し,台風が中四国付近にある時以外には,対流不安定度は強いものの,地形による強制上昇以外には,積乱雲発生のトリガーとなる上昇流が中四国付近に形成されうる総観場ではなかった。しかし,秋雨前線の影響を受けやすい9月には,地形の影響以外に,大規模場の前線との位置関係も,日々の大きなΔPR>0に関わる因子の一つとなる可能性が示唆された。
一方,基本場の傾圧性が強い4,5月にも,低気圧前面で対流圏下層の南風域が中四国よりもかなり北方まで伸びる状況では,10mm/hを超える激しい降水の寄与により高知側で降水量が多くなる日も少なくなかった。しかし,九州西方の低気圧から南東方に地上前線が伸びる状況では,地上前線の北東側で,「安定な前線面よりも下方での,低気圧の構造としての南東風が卓越」することにより(恐らく,安定成層下で900hPa前後の高度を中心に,山に気流がぶつかる状況),5mm/h以下の「普通の雨」が高知側を中心に持続し,少なからぬ日降水量差が形成されていた点も興味深い。
なお,図は略すが,例えば九州や関東での秋雨期の降水の20世紀前半と後半との違いも小さくなかった。季節サイクルの中での,そのような広域気候系の変動に伴うΔPRへの寄与の違い等にも着目して,今後は長期解析にも着手したい。

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