日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P121
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発表要旨
スマホから世界を眺めると 当事者としてSDGsを考えるための高校地理授業
―必修となる地理総合を視野に―
*山内 洋美
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抄録
1. 「スマホ」とシステムアプローチ

日々の地理の授業において、グローバルな地球的課題を生徒とともに考えるときに、当事者意識をもたないがために、地理的認識を無視して無責任で非現実的な価値判断を行うことが大きな課題であると考える。そこで、当事者として自然環境と人間社会の関係性をシステミックにとらえるために適切な素材は何か、と考えた時に、生徒が肌身離さず持っている「スマホ」が思い浮かんだ。スマホは世界中から原料をかき集め、途上国の安価な労働力によって組み立てられて生徒の手に届き、その手の中で日常の身近なコミュニケーションを担うとともに、リアルタイムで世界中の情報を検索する。まさにグローバリズムと当事者性の関係を問うにふさわしい素材である。そして非常に複雑な構造をもち、使用することで複雑な価値判断を可能にするという意味で、自然環境と人間社会との関係でできている複雑な世界を複雑なままとらえるというシステムアプローチの考え方を用いるのにふさわしいと考えた。平成30年3月告示「地理総合」の1 目標(2)に「地理に関わる事象の意味や意義、特色や相互の関連を、位置や分布、場所、人間と自然環境との相互依存関係、空間的相互依存作用、地域などに着目して」多面的・多角的に考察する力を養うことが明示されたが、これにも合致すると考える。

システムアプローチを授業実践において用いるためには、関係構造図や開発コンパスなどの手法がある。しかし、関係構造図はその分類に用いられた用語について生徒が明確な定義を得ている必要があり、また開発コンパスでは分類が大まかに過ぎることがある。また、関係構造図や開発コンパスには上記「地理総合」目標(2)を実現するのに欠かせないスケール(地域)を組み入れることが難しい。三橋(2018)でも「地理総合」の方向性を踏まえてSDGsを地理教育で扱う際の地理的スケールの重要性を挙げていることから、今回の実践ではブレストとして開発コンパスを、システミックな認識を地理的スケールとともに得るために、白地図を活用したジグソー法を用いた。



2.「スマホ」を通じて自らと世界のつながりについて考えるための地理授業の試み

授業の対象は3年地理B(増単)選択者31名である。昨年度地理Bを4単位履修済で、価値判断のためのワークおよび手書きによる地図の重ね合わせやデータを用いた作図を経験している。しかし、複雑かつ多面的な事象の読み取りは苦手で、また単一の「解答」にこだわる面が残り、他と違う自らの考えを表明したり、他と異なる価値判断をしたりすることにようやく慣れてきたところである。

まず、活動のための3~4人班をつくり、ブレストのための開発コンパス作成を行った。「スマホ」から連想する事象およびスマホでできること・できないことを書き出させ、開発コンパスの上に配置させて、そこから「スマホは社会の中でどのような役目を果たしているのか」を考えさせた。その上で、当事者意識を引き出すために「スマホ」がなくなったら自分の生活にどのような影響が出るかを考えさせた。すると、生徒がスマホに対して、かなりマイナスのイメージを持っていることや、スマホがなくなったら多くプラスの影響が出ると考えていることが見えてきた。

そこで、大平他(2018)を用いてスマホの製造と流通の流れを確認した上で、「スマホはどこからくるのだろう?」というテーマを設定し、各班を1人ずつ、エキスパートA(自然環境と農業)・B(人口と環境)・C(鉱工業と経済)に分け,それぞれ教科書等を用いて白地図に読図・作図の上,読み取らせた。その後,もとの班に戻ってジグソー法の手法で共有し,スマホの原料産出国と普及率上位国の関係性について考えさせた。すると、多くの生徒はロシア・南アフリカ・サウジアラビア等一部の原料産出国における携帯電話普及率の高さや、携帯電話普及率が高い国は穀物輸入国でもあることを指摘した。つまり、関係性ではなく共通点・相似点を見いだそうとしたことになる。つまりこれまで行ってきた、ウェビング等の関係性を見いだす手法が効果をなしていなかったということがわかった。

そこで、今後の授業では関係性について考えると強調した上で、スマホを通じて世界のつながり(=システム)を見いだすためのポスター作成に入った。その結果と新たにみえた課題については,当日述べる。



3 参考文献

碓井照子 2018.『「地理総合」で始まる地理教育―持続可能な社会づくりをめざして―』古今書院.

大平 和希子他 2018.『スマホから考える世界・わたし・SDGs』開発教育協会。

三橋浩志 2018持続可能な社会づくりと地理教育の関係.科学 88-2:162-165
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© 2018 公益社団法人 日本地理学会
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