日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P115
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発表要旨
北海道の農山村におけるインバウンド旅行者向けのサイクル・ツーリズムに関する予察的調査
*鷹取 泰子佐々木 リディア
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抄録
■研究の背景・目的・方法
 近年、日本へのインバウンド・ツーリズムが急速に成長し、改定された「観光立国推進基本計画」(2017年3月閣議決定)においても、インバウンド消費の更なる拡大目標が新たに設定された。計画に含まれるスポーツ・ツーリズムのうち、サイクル・ツーリズムが成立するための地理的制約は相対的に少なく、ポスト・マスツーリズム時代において農山村地域に新たな観光資源を見いだしうる余地は大きい。各地で経済的効果等が期待できる一方、一般的なインバウンド旅行者にとっては自転車等の現地調達が必要で、受け入れ側の十分な体制づくり・環境整備が不可欠である。
 本発表では日本国内の農山村地域におけるインバウンド旅行者向けサイクル・ツーリズムの展開と課題について検討するため、ゴールデン・ルート以外で多くの観光客を集める北海道を事例地域とし、現地調査等により予察的に検討した結果を報告する。基礎データ・資料として(1)自転車を用いたサービスを旅行者向けに提供する自治体・団体等のウェブサイト情報を入手、さらに(2)英語・中国語(簡体字)による市販の旅行案内書を使用し、(3)2012年~2017年に実施したレンタサイクルの実態に関する調査・観察にもとづき検討した。

■サイクル・ツーリズムの諸類型
 予備調査の段階において、日本国内のサイクル・ツーリズムとして確認できた類型は、イベント型(サイクリング大会、ロングライド等)、タウンサイクル型(1つの地域/拠点におけるビジネス移動・観光等を目的とした利用)、長距離移動型(自転車による移動を目的としたツーリズム)、観光ツアー型(事業者等によるガイド付きツアーサービス)であった。インバウンド旅行者が日常的に利用可能なサイクル・ツーリズム関係のサービスとしてはタウンサイクル型と観光ツアー型の重要性が高いと考え、農山村地域でその実態を検討しながらインバウンド旅行者向けサイクル・ツーリズムの課題等を抽出した。

■農山村地域におけるインバウンド・サイクル・ツーリズムにみる課題・展望
 北海道で農山村を含む地域として道央圏、道北圏、十勝圏で現地調査を行い、都市圏のサイクル・ツーリズムとの比較のため、札幌における実情も把握・検討した。
 北海道内の農山村地域で国籍を問わずインバウンド観光客の多い道央圏や道北圏、とくにニセコや倶知安、富良野、美瑛ではレンタサイクル業者が複数存在し、スポーツバイクからママチャリ、電動自転車まで様々な自転車を提供する。ガイド付きツアーによるツーリズムも盛んであり、国内有数の自転車イベントの開催や、自転車積載可能なバスの運行など、地域の自転車対応を積極的に打ち出す地域振興も特徴的である。グローバルな宿泊予約サイトへの登録施設も多く、ニセコの観光協会のウェブサイトでは日英独以外の言語の情報提供もされ、インバウンド対応の先進的な地域と言えそうである。一方、十勝圏は観光事業は後進的で、インバウンド対応のサイクル・ツーリズムの活動・事業はまだ少ない。一部の起業家によるツアーガイドやレンタサイクル事業が確認できる程度で、農業生産の盛んな土地柄とそれを観光資源と活かす方策の充実が今後の課題となりそうであった。なお、札幌では、コミュニティサイクル事業や放置自転車等を活用したレンタサイクル事業等複数のサービスが認められる。それぞれ英語やそれ以外の言語への対応がされ、インバウンド観光として重要なサービスを提供していた。
 近年、北海道としてサイクル・ツーリズム推進の方向性が打ち出され、5つのモデルルートが試行的に設定され、ハード面・ソフト面の両方における充実が計画されているが、長距離移動を前提としたスポーツ自転車のレンタルは少なく、自転車を持参する愛好家によるツーリズムのみならず、ライトな自転車利用も広く含めた体制づくり・広報が期待される。
 山本他(1987)において北海道は「農家の収入に観光収入を組み込める可能性が大きい」が「観光業を農家の就業に加えている例は極めて少ない」点を指摘していた。美しい農村景観への集客を観光収入に直結させることは容易ではなく、とくに観光客による圃場への侵入などの問題は農村資源への悪影響となり、農山村地域におけるサイクル・ツーリズムの展開を図る上で無視できない。今後、本結果等にもとづき、さらなる検討を進める計画である。
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© 2018 公益社団法人 日本地理学会
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