抄録
本研究は、岐阜県の伝統的な里山地区において、サイクリングツアーやウォーキングツアーを提供するツアー業者に焦点をあて議論するものである。研究は自治体の統計、調査対象企業によりウェブで公開されているデータを入手すると共に、現地調査(2017年7月、2018年7月実施)、同企業の経営者および社員、日本国内外の利用者へのインタビュー調査にもとづいて分析した。
調査対象の「株式会社美ら地球」は、インバウンド観光客の人気の高い岐阜県飛騨地域において、ツアー運営およびコンサルティングを業務とする企業であり、若い夫婦によって2007年設立された。彼らは飛騨古川に移住し、地域の里山や農村のライフスタイルを対象した、可能性を秘めたツーリズムを見いだしたのであった。2010年以降は<素晴らしい里山と地域人(ちいきびと)のライフスタイルのご案内>という触れ込みで「Satoyama Experience(里山体験)」という半日のサイクリングツアーを提供している。ガイドの案内で里山地域を巡るそのツアーは大変に好評で、ヨーロッパ、アメリカ、オーストラリアからの訪問者に特に人気が高い。
同社は地域社会への還元に奮闘しているが、そうした取り組みにもかかわらず、その貢献は限定的(地域への投資、雇用、地元経済への利潤は最低限)であると捉えられており、不信感の払拭と地域社会に受け入れてもらえることが依然として主な課題となっている。この新しいビジネスモデルは、いくつかの欠点・課題はあるものの、同様の観光資源を活用した他の里山地域にも推進することで、新たな雇用や収入をもたらす可能性を有している。