日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P123
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発表要旨
流域を事例としたESDの授業プランの提案
*南埜 猛阪上 弘彬𠮷水 裕也安永 虎吉松岡 茉奈森 清成小林 毅郎石井 瑛之
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抄録

1.はじめに
本研究は,2017・18年に告示された次期学習指導要領を前提としたESD実践の検討を目的とし,ESDの授業プランをPDCAサイクル適用により開発・構築するものである。Plan段階の検討については,2018年度地理科学学会春季学術大会で報告した。今回の発表では,Plan段階で得られた知見を踏まえ,Do段階として小学校社会科授業プランの検討過程と授業実践の様子を報告する。

2.プロジェクトWETと「Discover a Watershed」の検討
 プロジェクトWETは,アメリカのNPOで体験型の水教育プログラムに取り組んでいる組織である。日本においては,河川財団が2003年よりその使用権を得て,プロジェクトWETジャパンとして活動している。その活動の中に,「Discover a Watershed」の学習活動がある。アメリカでは,コロラド川を事例として学習活動マニュアルが作成された。プロジェクトWETジャパンはそれを基にして木曽川版を作成している。その『木曽川流域版ガイドブック』には,12の学習活動がアクティビティとして示されている。このガイドブックの特徴は,現行の学習指導要領との関連が示されている点である。具体的には,12のアクティビティが各校種・教科・学年のどの単元で実施可能かが示されている。
 木曽川流域の事例を,報告者らが取り組んでいる加古川流域の事例に置き換えることができるかどうかを検討した結果,すべてのアクティビティで加古川版が可能であると判断された。そこで,「木曽川のできごと・今,昔」と「木曽川の水配分」の2つのアクティビティをとりあげ,さらに詳細な検討を加えることにした。今回の報告では,そのうち「木曽川のできごと・今,昔」の検討を報告する。

3.アクティビティ「木曽川のできごと・今,昔」の検討
 「木曽川のできごと・今,昔」は,木曽川流域における水にまつわる歴史的な出来事を時代順に並べ,木曽川の流域の歴史について学ぶアクティビティである。対象学年は小学校高学年から高校生であり,社会系教科での実施を想定して立案されている。アクティビティにおける教材は「イントロ用カード」1項目と木曽川流域での様々な事象を示した「木曽川の出来事・今,昔カード」16項目(水利用,治水,事件3つのテーマが設定されており,それぞれ9,4,3項目)である。各項目は4枚のカードで構成される。項目を説明する一文が4つに分割され,4枚のカードに分けて記されている。またそれら4枚には同じ写真や図が加えられている。都合,イントロ用カードを含め17項目×4枚の計68枚のカードが用意されている。

4.「加古川のできごと・今,昔」とESD の視点
 「木曽川のできごと・今,昔」で示された水利用,治水,事件の事象については,加古川においても,同様の項目設定は容易である。したがって,加古川版の作成にあたっては,どのような項目を設定するかとどのような説明の文を作成するかが課題となる。木曽川版の各項目の文は,少ないもので58文字,多いもので108文字であり,平均文字数は79.8文字であった。また1カードあたりでの平均文字数は19.4文字である。4分割された文については,1枚目に年の情報が示されるなどの傾向はみられるものの,それ以外には特に目立った共通性はみいだせなかった。加古川版の教材開発においては,5W1Hなどを意識し,1枚目から4枚目の順番毎のカードの位置づけをより明確にし,文と文の分割を検討する。また木曽川版では時代順という点は示されているが,時代としては近世の項目が多い。加古川版では時系列にも配慮し,時代区分(古代~現代)毎に数を揃えるなどの工夫を加える。
 また流域の出来事の項目を統合・総合的に思考すること,過去から現在までの水利用,治水の考察を通じて持続可能性を前提とした加古川流域の将来を志向することなどのESDの視点を踏まえて,ESDに関するコンピテンシーの育成を目指す。今回は小学校での実践を行うが,小・中・高学校での社会系教科の学習における位置づけについても配慮する。
 これらの視点を取り入れて,具体的な教材開発を行い,2018年9月に「加古川のできごと・今,昔」の授業実践を兵庫教育大学附属小学校で実施する計画である。当日のポスター発表ではその様子と評価を含めて発表する予定である。

(本研究は,平成30年度兵庫県委託「加古川流域の水文化の交流・連携と継承に関する調査研究」(研究代表者:南埜 猛)による研究成果の一部である)

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