抄録
1. 事業の背景
和歌山県では、平成28年9月に「和歌山県データ利活用推進プラン」を策定し、統計的思考やエビデンスに基づく行政を推進していくため、和歌山県が抱える具体的な課題に対し、データを利活用した高度な現状分析を実施し、得られた新たな知見を県の施策に反映するというものであった。この一環として、平成29年度和歌山県データを利活用した公募型研究事業が打ち出され、本学はこの事業に応募し、応募5件の中からもっともすぐれた提案として採択された。平成30年度までの2か年事業となった。
2.事業概要
提案研究名は、「小地域人口推計に基づく人口縮減地域での集落再編と賦活力ある地域拠点摘出」であり、大阪市立大学の水内俊雄(地理学)を代表として、木村義成(GIS研究)、水上啓吾(財政学)、林久義、澤田弥生(いずれも申請時は、地域連携センター)、山神達也(和歌山大学、地理学)、熊谷美香(申請時は和歌山県立医科大学、GIS研究)でプロジェクトチームを編成した。そして以下のようなアウトカムが得られるべく、事業は構成された。
和歌山県の人口減少への危機感は高いが,依拠する人口推計方法を改善し,①より小地域の統計に基づき,人口減少のアラートの強弱をあぶりだすこと。②賦活力のある小地域の人口推移のパフォーマンスを検証し,新たな地域の将来シナリオを練る判断材料を提供すること。③小地域のシミュレーションより得られる縮減小地域群で予想される効果的な集落再編成のコストパフォーマンスを推計すること。④こうした情報インテリジェンスの強化を共有し,政策支援の基盤となる地理情報統括プラットフォームを形成することが,本研究の目的として設定された。
4つの調査チームが構成された。①の大元となる人口推計における<小地域やメッシュデータに基づく<GIS・人口推計チーム>、②の<地域賦活事業の検証と提案チーム>,一方で,①で抽出した人口縮減の小地域連坦エリアにおける集落再編成のコスト推計を,③の<集落再編成とコスト推計分析チーム>で行い,数値に基づく施策意思決定の判断材料を提供する。そして①~③のアウトカムを蓄積しつつ,情報インテリジェンスの強化にもとづく,④地理情報統括プラットフォーム形成チームである。
3.分析手法
階層的な地理的分析単位のもとに地理情報を集計することを、本研究の第一の主眼とした。下記の5層での分析は、前例をほとんど見ることがなく、和歌山県としてこうしたデータベースを保有、更新しゆくことは、エビデンスベースの政策形成EBPM推進に当たって、アドバンテージとなる。
⑤平成合併期(和歌山県では30市町村)
④昭和合併期(和歌山県では50市町村)
③明治行政村(204から190?市町村)←小地域統計の集計 open
②大字レベル=江戸期藩政村 ←小地域統計 open
①小字レベルほか ←統計区or調査区統計 申請
⑤のレベルについては、今回の分析対象とはしなかった。④のレベルについては、和歌山県及び県下50の旧市町村(平成の大合併前)の人口の推移が1960年から精査され,年齢階級別人口構成とコーホート分析の結果が図化された。
②のレベルについては、オープンにされている小地域統計を加工する必要があり、この作業は今回の調査における重要な基礎作業となった。1995年以降は小地域毎にまとめられているので、③の明治行政村への読み替えは、合併編入の確認という労力は要するが、1990年以前の小地域データが用意されていないことに比すれば、手間暇はさほどではない。1990年、1985年、1980年は、①のレベルの調査区毎の膨大な個人データセットとなり、さらに1975年、1970年、1965年は紙媒体での調査区別集計データが、統計局に申請により使用できるという状況であった。各年度ごとの①にあたる調査区別地図は、統計局に紙媒体として保管され、コピーにて利用できる。したがって①から③レベルでの統計は、原理的には1965年から5年毎に変数構成の違いはあれ、復元可能ではあるが、膨大な時間と労力のかかる作業となることが確認された。従ってこの研究事業では、サンプル地域を選んでの、1965年から2015年までの人口動態を明らかにすることにした。
4.アウトカム
当日は、下記の章立ての中でも、特に第3章の成果についてGIS地図をもとにしながら、紹介したい。
第1章 本報告書の目的と分析手法の特徴
第2章 和歌山県及び県下旧市町村の人口の推移:GIS・人口推計分析
第3章 各地理的単位に基づく人口動態と分析対象地域の人口動態の特徴
第4章 集落再編成とコスト推計分析
第5章 地理情報統括プラットフォームの構築
なおこの成果は、プロジェクトメンバーの共同作業で生まれたものであり、水内が代表してその成果を発表していることを付しておく。