日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 712
会議情報

発表要旨
大阪府深日における水産物直売施設の開設に伴う漁業経営体への影響
経営状況と集出荷作業に注目して
*前田 竜孝
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
報告者はこれまで,水産物の集出荷に関わる主体間の関係性や出荷先の選択に関する意思決定について考察してきた。本発表では,大阪府泉南郡岬町に所在する「道の駅みさき」内の直売スーパーへの水産物出荷を事例として,流通システムが漁業経営と漁業活動に与える影響を明らかにする。具体的には,個別経営体の経営状況と集出荷作業に焦点を当て,本店舗の開設がこれらへ与えた影響を分析する。調査は,同町の深日漁業協同組合(以下,深日漁協)に所属する経営体を対象として行った。

 本直売スーパーは和歌山県に本社を構えるプラス(株)の経営のもと2017年4月に開設された。水産物の出荷は事前に「店舗への出荷者」として登録した経営体のみが行える。これらの経営体は,深日漁協も含めた町内に所在する4漁協に籍を置く経営体に限られている。なお,本店舗では,水産物だけで店舗全体における売上金額の30%程度を占めるという。この数値は他の店舗と比べて極めて高い割合であり,水産物が本店舗の主力商品となっていることが明らかである。

 販売形式は,店舗側による完全委託販売となっている。すなわち,各経営体は水産物を配送するのみで,以後の値付け,加工,パック詰め,商品の陳列,売れ残りの他店舗への配送・処分等は全て店舗側が行う。このように店舗側の作業が多いため販売手数料は高めに設定されており,売上金額の30%となっている。したがって,各経営体の手取りは売上金額の70%となる。各経営体は,こうした販売上の特徴をもつ直売スーパーへの出荷(以下,道の駅出荷)と,既存の出荷先である産地市場などへの出荷を組み合わせて,2017年より漁業経営を行っている。

 次に,直売形式での水産物出荷の開始の影響を考察するために,漁獲高(金額)の変化,集出荷作業にかかった時間,出荷される水産物の特徴に注目し,主たる出荷先である産地市場への出荷と比較した。はじめに2016年と2017年の各経営体の漁獲高の変化について漁協の資料を用いて分析した。その結果,道の駅出荷をする経営体の漁獲高は,前年と比べると約1.5~4倍に増加していた。一方で,道の駅出荷をせず,産地市場を出荷先の中心とする経営体は前年と比べて大幅な漁獲高の上昇は認められなかった。次に,集出荷作業へ与えた影響を明らかにするために,各経営体が水揚げ作業に要した時間を計測した。産地市場への出荷では平均16.5分を要したのに対して,道の駅出荷では平均40.3分かかっていた。これには,店舗内に活魚水槽がない点が影響している。すなわち,各経営体は活魚での出荷はできず,水産物を〆てから配送しなければならない。したがって,作業時間が長くなっている。この他にも,道の駅までの配送には約20分を要する。以上より,産地市場への出荷に比べて道の駅出荷は労力の面で経営体の負担が大きいといえる。最後に,道の駅へ出荷される水産物の特徴を明らかにするために水産物の体長・重量・数量の計測を行った。その結果,道の駅へは小型の水産物,低価値の水産物,数が揃わない水産物などが出荷されていた。これまで産地市場に出荷できなかった水産物が道の駅へ出荷されている実態が明らかとなった。

 このように,直売施設の開設は各経営体の漁獲高,集出荷作業,出荷する水産物を変化させた。流通システムは漁業活動に強く作用する。その一方で,各経営体はこのシステムへ適応しつつ日々の漁業活動を営んでいる。
著者関連情報
© 2018 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top