日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 612
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発表要旨
草津白根山周辺地域の水環境に関する研究(2)
*猪狩 彬寛小寺 浩二浅見 和希
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抄録
Ⅰ はじめに

 草津白根山ではその特徴的な地質や火山活動により、多くの温泉水とともに硫黄鉱山を源とする強酸性・高EC値の排水が周辺河川水に大きな影響を及ぼしている(諸星ほか 2018)。地質学的・地球物理学的ならびに地球化学的関心の高い対象が多く存在している草津白根山の周辺河川水においても、その水質を把握し、地域特性を明らかにすることで、水環境形成の要因を考察することを試みる。

Ⅱ 研究方法

 2017年5月から2018年8月にかけて14回の現地調査を行った。調査地点は山体の東側と南側を流れる河川を中心に、約45地点ほどである。現地では気温、水温、pH、RpH、EC(電気伝導度)、流量の測定を実施した。2018年2月6日に草津町の協力の下、今回噴火が発生した本白根山東麓の火山灰の分布域・降灰量の調査、サンプリングを行った。河川水以外にも、降水や積雪、温泉水の現地調査とサンプリングを行っている。

Ⅲ 結果と考察
 1.東側(白砂川)
 白砂川下流域では弱アルカリ性の水質が観測されるが、いくつかの流入支川では酸性を示し、支川上流域における温泉排水や火山活動の影響を受けた地下水の流入が示唆される。EC値は白砂川本流において調査の度に大きく変動しており、大量の温泉排水を貯留している品木ダムの放流状況に影響されている。
 白砂川本流のpH平均値は下流に向かうにしたがって上昇傾向を見せるが、最下流の地点で再び値が下がっている。これは最下流地点の直上で、品木ダムより直接導水される水によってpH値が引き下げられていると示唆される。
 2.西側・南側(万座川・南麓諸河川)
 万座温泉の排水が流れる万座川の支流には旧硫黄鉱山廃水の影響を受けた強酸性・高ECの河川水が確認された。調査地域中央に位置する滝ノ沢川、赤川、遅沢川ではpH4.0-7.0、EC200-600μS/cmを示し、上流域での鉱山・温泉排水とともに、周囲に広がる畑地からの影響も考えられる。厳洞沢川ではpH2.0、6000μS/cm前後で、上流域に位置している旧硫黄鉱山廃水の影響を強く受けていると示唆される(諸星ほか 2018)。
 山体周辺の、2018年1月23日(噴火翌日)の水質濃度が1月18、19日(噴火前)の濃度よりも高かったが、アメダス(草津)における18日の平均気温:2.0℃(最高気温:7.5℃)、24日の平均気温:-9.9℃(最低気温:-13.6℃)であったことから、噴火前の水質濃度には流域積雪の融雪に伴う、流量の増加・希釈の影響が反映されている。

Ⅳ おわりに

 温泉水や硫黄鉱山を源とする強酸性・高EC値の排水が周辺河川水に影響を及ぼし、ダムや発電の導水により流域内で水質が変化する地点が確認された。噴火後の山頂域では、大量の火山灰が堆積している様子が確認され、特に東麓の流域で強降雨時に火山灰の流入により河川水質に影響が現れることが考えられ、今後も継続的な調査が必要である。

参 考 文 献

 諸星幸子, 小寺浩二, 猪狩彬寛(2018):草津白根山周辺地域の水環境に関する研究, 2018年度日本地理学会春季学術大会発表要旨集.

 大井隆夫, 小坂知子, 平塚庸治, 山崎 智廣, 垣花 秀武, 小坂 丈予(1991):白根硫黄鉱山からの酸性坑排水の遅沢川水系河川に与える影響, 日本化学会誌, 1991(5), 478-483.
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© 2018 公益社団法人 日本地理学会
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