日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 636
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発表要旨
都市政策における先端技術の普及
―神奈川県横浜市を事例として―
*本多 広樹
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抄録

1.はじめに

 近年,先端技術を活用した地域政策が数多く実施されている。従来では,行政や一部の大企業のみが先端技術のユーザーとされていたが,近年では地域の企業や個々の住民への先端技術普及が重視されている(本多 2017)。そこで本研究では,先端技術を組み込んだ地域政策に着目し,普及の空間スケールおよび各ユーザーの分析を通して先端技術の普及プロセスを明らかにすることを目的とした。研究対象地域としては,各種の先端技術の普及を推進する先進事例である神奈川県横浜市を選定した。



2.横浜市における先端技術普及の背景

 横浜市では先端技術を活用した都市政策が数多く行われている。その中でも最大規模のものが,2010年度から2014年度まで実施された「次世代エネルギー・社会システム実証事業」である。この事業は経済産業省の主導により,全国4地域で実施されたものである。横浜市もその一環として,各種先端技術,具体的には太陽光発電設備,家庭用エネルギーマネジメントシステム(以下,HEMS),電気自動車の3種類を中心に普及促進を図った。

 この中で特徴的なものが,HEMSである。実証事業期間当時,HEMSの知名度はまだ低かった。しかし,横浜市による補助制度の拡大(図1)や,地域の企業による普及促進によって,2014年度時点ではHEMSは市内4,230戸に導入された。



3.各ユーザーへの先端技術普及

 横浜市においては,2010年以前は太陽光発電設備の普及が中心であった。実証期間がはじまった当初では,HEMSの認知度の低さや補助制度が一部の区に限定されていたこともあり,普及に関わる企業,採用する個人ともに少数であった。横浜市はHEMSを販売する企業に対する認証制度を実施していたが,この当時の加盟企業はごくわずかであった。しかし,2012年度に補助制度が市内全域に拡大すると,この制度に申請する企業が大きく増加した。そして,これらの企業が自身の営業範囲内の顧客にHEMSの採用を勧めた。

 HEMSを採用する企業や個人の中で,以前からこの機器を知っていたユーザーはごく僅かであった。そのため多くのユーザーにとって,横浜市行政や企業からの働きかけが採用の契機となった。
 実証期間後の現在では,量的な普及は静穏化している。その一方で,神奈川県と共同で他の地域にて実証実験を行う企業や,ビジネス実装のための検討など,実証期間中の知見を活かした新たな動きが生まれつつあることが明らかになった。

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