日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P319
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発表要旨
時間スケール別の降水量認識と情報獲得
―教職課程の大学生を対象として―
*大津 拓也澤田 康徳
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抄録

目的:従来,気候要素の物理量認識に関して,気温については現在や夏期といった一定時点や期間平均における暑さ・寒さについて,降水量については時間・日といった期間内の多寡の認識が時間スケール別に調査されてきた.降水量は,時間・日・月と異なる時間スケールにおける降水の有無や個々の現象による積算量で,日変化や年変化の規則性が明確な気温に比べて変動が大きい.防災において積算降水量は重要な物理量であるが,時間スケールの異なる降水量認識についてはこれまで議論されてこなかった.短時間降水量は日常生活において密接な物理量であり,日~月等の長期間の積算降水量は防災の観点からも議論すべき認識内容である.また,気候認識には経験的,地誌的理解および系統的理解が関わることや,情報獲得手段の差異も指摘されている.気候認識は,幼少期から連続的に獲得される情報の総体であることが想定されるが,長期的な情報獲得の気候認識への関わりは明確になっていない.本研究では,将来的に防災教育に携わる可能性が高い教員養成大学在学生を対象として,時間スケール別の降水量認識とそれに関わる長期の情報獲得を明らかにする.

調査:2017年6~7月に教員養成大学(東京学芸大学)において地理,自然環境,環境教育に関連する講義の受講者を対象にアンケート調査を実施した(223名).質問内容は,天気への興味関心(5段階評価),多いと思う降水量(時間・日・月)に関して,および最も印象に残っている雨に関する経験や出来事(自由記述)などについてである.

結果:多いと思う降水量は,時間(日)降水量では10~20(100~200)mmで回答者数が最大を示す.一方,月降水量では1000 ~5000mmにおいて回答者数が最大(30%)を示し,時間スケールの拡大に伴って強雨研究の豪雨の定義や気象警報の基準値からのずれが大きくなる(図1).さらに,多いと思う降水量を時間スケールごとに四分位を境界とし,降水量認識の階級を小~大の4階級(Ⅰ~Ⅳ)に区分した.そして,最も印象に残っている雨に関する情報を階級ごとに整理した.被災経験などの強い経験は,時間降水量では階級Ⅳで回答割合が高く,日・月降水量では階級Ⅰで割合が高い.すなわち,多い降水量の認識が極端な階級である場合,強い経験を伴うことが多い.仕組み(現象の原理等)は,いずれの時間スケールにおいても小さい階級ⅠやⅡで割合が高い.報道(災害報道等)は,中程度の階級ⅡやⅢで割合が高い.以上のことから,降水量の大小の認識は,主要な情報獲得が報道の場合中程度の階級に近いが,時間降水量においては経験(仕組み)によって大きく(小さく)認識される傾向がある.また,階級による情報種別割合の最大最小の差は,時間スケールが大きくなるほど小さくなり,長期間の降水量の認識には階級による情報種の差異は不明瞭となる.興味関心は,時間スケールが大きいほど中程度の階級で得点が高く,長期間で具体的理解が難しい積算降水量の認識には,興味関心や知識理解程度の高さが関わる可能性が考えられる(表1).さらに,すべての時間スケールにおいて階級ⅠまたはⅣの場合,雨に関する語句の種類が少なく,雨・大雨を多く記述している.すべて階級ⅡやⅢの場合,雨・大雨のほかゲリラ豪雨や豪雨などの複数の雨の降り方も記述している.大雨を極端な降水量階級とする場合,降水現象の知識理解がおおづかみな傾向を示すことが判った(図2).

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