日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 812
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発表要旨
深圳における都市開発と城中村の土地権利関係
皇崗村と湖貝村の事例から
*小野寺 淳
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抄録
1.城中村への注目

 現代中国の都市空間の特徴を考察する際に、いわゆる「城中村」に注目することが有効である。城中村とは、都市化が面的に進行する過程において、郊外の村落が都市開発によって拡大した市街地に取り囲まれた、都市の中の村、である。その特異な景観は城中村の存在を際立たせているが、その本質は、村の集団に関わる土地などの不動産の権利関係にあると考えられる。

2.都市開発にともなう集団所有地の権利関係

(1) 国家レベルおよび広東省の動向

 中華人民共和国の土地関連法規では、集団所有地が村外の主体による非農業用途に充てられる場合、政府による土地収用の手続きを踏むことが必須とされてきた。政府による農民への補償は規定されているが、あくまで農地としての補償であり、非農業用途による地代は考慮されてない。

 ところが、経済改革・対外開放で先行した広東省では、従来の土地収用手続を基本としながらも、“三旧改造”という再開発促進政策が採られ、特に城中村の再開発に際しては村の利益に対して柔軟な配慮がなされつつある。例えば、広州の新都心に近く地代が高い城中村においては、補償条件として実質的な地代が十分に考慮され、集団の不動産の相当な部分が村の手に保持され、デベロッパーの城中村再開発プロジェクトへの直接の参加が初めて認められて、大規模な再開発が進展した。

国家レベルでは、2013年の中国共産党第18期三中全会の《決定》で、計画や用途規制に適合するという前提で、農村集団の経営性建設用地が譲渡、賃貸、出資されることを認め、国有地と同等に市場に参入して同じ権利と同じ価格を得られるようにし、土地収用の範囲を縮小して手続きを規範化し、土地を収用される農民に対する合理的で規範的で多元的な保障メカニズムを整備し、農家の住宅用地の用益物権を保障し、農村住宅の用地制度を改革し整備する、ことが示された。

(2) 深圳経済特区内外の土地政策

 深圳経済特区においては、土地等に関する実験的な政策がさらに早くから実施されていた。1992年には当時の経済特区の全域において、農村都市化(“農転非”)、すなわち戸籍上の身分が農民から都市住民(“居民”)へ転換し、農民たちの集団所有地がすべて国有地になった。2003年末~2004年初には、特区外(当時の宝安・龍崗区)においても農村都市化が進められた。このプロセスにおいては、政府による土地収用の手続きを経ないで所有関係を変更するという“転地”が行われた。集団所有地の歴史遺留問題については、転地をした上で村民の土地使用権が認められ、違法建築の責任も追及されなかった。なお、土地が収用されることに対する補償は何もなされなかった。

こうした政策の帰結として、例えば40年後(商業用地)や70年後(住宅用地)に、土地使用権が更新されるかどうか、されるとしても無償か有償か、といった問題が残った。しかし、当面はこれまで通りに村や村民が土地を含む不動産を使用できている。一方、国有地となれば、集団所有地としての取引上の制限が外れ、市場の地代に見合った利益を村あるいは村民が得られるようになるとも考えられる。

3.深圳の城中村

(1) 皇崗村の事例

(2) 湖貝村の事例

4.深圳の事例が意味すること

 村は産業構造や空間構造が変化する状況に適合し、深圳市当局による政策や計画にも適合してきた。それぞれの時代において、村は必要な労働力を収容して供給するなど都市経済に対する特定の役割を果たしてきた。そして今でも、土地を含む不動産を根拠にする股份公司を中核とした経済的な実態をともなう「村」が、依然として存続している。集団所有地をめぐる権利関係は国家レベルでも地方レベルでも変化しつつあるが、村はその変化に柔軟に対応して、村の枠組みが維持されている。こうして城中村は中国とりわけ華南の都市空間の態様を特徴づけている。
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