日本地理学会発表要旨集
2018年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P327
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発表要旨
カナダ・ブリティッシュコロンビア州のピースリバー地域における農村空間の商品化
*兼子 純菊地 俊夫田林 明
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抄録
1.研究課題と目的

発表者らはこれまでカナダ・ブリティッシュコロンビア州(BC州)における農村空間の商品化の特性について明らかにしてきた。すでに報告されたローワーメインランド,オカナガン,バンクーバー島の事例は,カナダにあっても大都市の近郊に位置し,恵まれた自然条件を活かして農村空間を変容させていた。しかし,大消費地から遠隔に位置し,自然条件も厳しい地域はBC州の多くの部分を占める。本報告はそうした地域の事例として,BC州ピースリバー地域(PRRD,図1)を対象に,その農村空間の商品化の特徴を明らかにする。



2.PRRDの自然条件と人文条件

 PRRDはBC州の北東部に位置し,面積は約12万㎢でBC州全体の13%を占める。西側にはロッキー山脈が連なり,地域の東部は緩やかな傾斜地となりアルバータ州の大平原へと続く。気候は大陸性気候で,年間平均降水量は350~500mmである。冷涼な気候で,無霜期間は100~110日(5月後半~9月前半)である。地域の名称の由来となったピースリバーは,ロッキー山脈に端を発し,ハドソンズホープにあるW.A.C. ベネットダムを経由して,地域を東流してアルバータ州へと続く。このピースリバー両岸の標高の低い地域が,農業適地となっている。

 広大な面積を持つ地域であるが,人口分布は希薄である。ただし,1996年の56,477から2016年の62,786と人口は増加している。都市(行政市)はフォートセント・ジョン(20,155人)とドーソンクリーク(12,178人)の二つであり,その他タンブラーリッジ,チェットウィンド,テイラー,ハドソンズホープ,ポス・クーペといった人口2千人未満の小地区や小村から構成される。地域の産業は,農業,観光,製造業に加えて,石油採掘や水力発電といったエネルギー産業や林業である。



3.地域の農業と天然資源

 大都市の市場から遠隔に位置し,厳しい自然条件にもかかわらず,PRRDにおいて農業は最も重要な産業である。地域の農業はピースリバー両岸に沿った肥沃な土壌を持つ地域を中心に保全農地(ALR)おいて展開し,これらは人口分布地域とほぼ合致している。

 2016年の農家数は1,335で1990年代以降は漸減傾向にあるが,1農家当たりの耕地面積は増加している(2016年602ha/戸)。主要作物はコムギ,エンバク,オオムギ,アルファルファ,飼料作物,キャノーラである。その生育期間の短さから野菜栽培は少なく,ファーマーズマーケットの開催は盛んではない。

 PRRDの農地の至る所で目にするのは,石油の採掘施設である。当地では石油や天然ガスの埋蔵が豊富であり,フォートセント・ジョンでは主要産業となっている。PRRDにおける農家の59%がこうした産業への農外労働に従事しており,この割合はBC州全体よりも高い。

 

4.タンブラーリッジでのジオパークへの取り組み

 人口規模は小さいものの,各自治体ではそれぞれの農村空間の特徴を転化させた観光への取り組みを行っている。ロッキー山脈という山岳地域との近接性を活かしたウィンターアクティビティ,ドーソンクリークにおけるアラスカハイウェーの起点0マイルポイントという街道の歴史性,チェットウィンドにおけるチェーンソーカービングによるまちづくりなどがある。なかでも2014年にタンブラーリッジが北アメリカで2番目の世界ジオパークに認定された。本報告では,わずか人口2千人弱の地区におけるジオパークの取り組みをはじめとするこの地域の特徴的な農村空間の商品化に関する活動の実態を紹介したい。
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