抄録
1.はじめに
近年,温暖化をはじめとする大規模な気候変動が世界各地で報告されている.この気候変動は,気候への依存度が高い果樹栽培に様々な影響をもたらしている.杉浦ほか(2007)では、日本で栽培されている主要果樹に共通して発芽・開花の前進が報告された.
オウトウ栽培にも同様の影響が考えられ,さらに突発的な異常気象の影響による凍霜の増加や,開花期の低温による結実不良なども指摘されている.一方で,オウトウ栽培に直接的に影響を与える気温や降水などの具体的な気候要素と収量との関係についての研究は少ない.神居(2017)によるオウトウの収量とそれに影響すると考えられる気候要素の比較から,開花期間の低温がミツバチの活動を介して結実不良を引き起こし,それが出荷量に最も大きく影響すると考えられる.しかし,山形県東根市を対象に行ったこの研究の対象期間は,資料の関係上過去10年と短い.そこで,本研究では開花期間の天候と収量の関係をより長期にわたり検証することを目的とする.
2.研究方法と対象地域
調査対象地域は山形盆地とした.山形盆地は東根市を含む6市3町からなる山形県東部に位置する盆地で,中央部を南北に最上川が流れ,東に奥羽山脈,西は朝日山地に囲まれている.山形盆地のオウトウの収量は県内の収量の約90%を占めているため,山形県の収量を東根盆地の収量として代用する.結実不良の発生にはセイヨウミツバチの活動が大きく関係していると考えられる.Narcis Vicensほか(2000)によると,セイヨウミツバチの訪花活動は,気温に大きく依存し,訪花活動は気温が12-14℃以下で低くなることが知られている(Free 1993).愛知県農業総合試験場(2009)によると,訪花適温は18-25℃であり,夜間および降雨があるときには活動しない.そこで,開花期間の日中6時から18時を対象として,活動の条件を満たす時間を訪花活動時間とし出荷量と比較した.但し,神居(2017)では降水の影響がわずかであることが明らかになったため,今回は気温のみを条件とする.訪花活動時間については,盆地内における南北の気温差と標高による気温差を加味するため,盆地内を500m毎の緯度帯に分け,基準とするアメダス山形の気温(時別値)と,アメダス尾花沢,村山,東根,高畠の気温(時別値)それぞれの関係性から緯度帯毎の気温を求め,緯度帯の面積で重み付けを行い,山形盆地の平均的な訪花活動時間とした.
3.結果と考察
1976年から2015年の40年間を分析した結果セイヨウミツバチの訪花活動時間と出荷量の間には相関関係がみられなかった.しかし,2006年から2015年の近10年においては強い相関関係(r=0.619)がみられた.最近は栽培面積の変化が少ないことや,オウトウ栽培技術の向上により,低温による結実不良以外の被害に対応できるようになったため,強い相関関係が現れると考えられる.
4.まとめ
山形盆地を対象地域とした分析では,過去40年間という長期間の分析ができた.しかし,過去10年の分析ではセイヨウミツバチの訪花活動時間と出荷量の間には比較的強い正の相関関係がみられた一方で,過去40年においては相関関係がみられなかった.栽培技術の進歩や主要栽培品種の変化に伴い,収量に影響する被害の種類や程度が異なると考えられるため,今後の研究ではその点も考慮していく必要がある.