抄録
2013年に1,000万人を超えた訪日外国人旅行者数は増加の一途をたどり,日本政府も2020年に4,000万人,2030年に6,000万人という目標を掲げている。その目標達成のためには訪日外国人旅行者の日本国内での行動の把握が必要であるが,その観光動態の十分な把握ができていないという状況にある。本研究では訪日外国人旅行者による市町村間移動をネットワークとしてとらえ,社会ネットワーク分析の手法を援用し,その構造の解明を試みる。
本研究では株式会社ナビタイムジャパンが提供する2015年4月1日から30日までの外国人旅行者のGPSデータを利用し,位置情報の観光分析への提供に同意した5,868人から,2時間以上滞在した市町村間で移動が確認された3,142人を対象とする。本研究ではGPSデータの時間情報から,宿泊地と2時間以上の滞在をしたが宿泊しなかった市町村(以下短時間観光目的地)を推定した。そのうえで,移動パターンを「宿泊地間移動」「宿泊地から短時間観光目的地への移動」「短時間観光目的地から宿泊地への移動」「短時間観光目的地間の移動」に分類し,それぞれの移動ネットワーク構造を分析する。
分析には旅行者による移動経路分析への応用が行われている社会ネットワーク分析の手法からCONCORを用い,ブロック間・内の密度をもとに結合関係を判断し,それぞれのネットワーク構造を考察した。最後に,結合関係が認められたブロック間・内の移動から,各市町村の宿泊地,短時間観光目的地としての移動の送出入量を算出し,市町村の類型化をした。