抄録
1.はじめに
野外において地形を観察していると,同じ地形が形成されていてもよいと思われる地域において,異なる地形が形成されていることがある.まずこのような地形の場所的(空間的)違いを見つけることは,地理学的に重要な見方である.さらに一つの地形に着目し,その地形がどうしてできるのか,逆に,どうしてできないのかを考えることは,地理学的な重要な考え方となる.このような見方・考え方ができるようになると,地形を見ることがこれまで以上に楽しくなり,地形形成への興味・関心がより高まる.そこで,高校の教科書に出てくる特徴的な海岸地形を取り上げ,野外の写真と地形図などを活用し,上述の地理学的な見方・考え方をふまえ,地形の成因を探る学習事例を紹介する.
2.リアス海岸
高校の教科書では,リアス海岸について,『山地の谷と尾根が沈水して形成された出入りに富む海岸の地形であり,日本では三陸海岸,志摩半島,若狭湾沿岸などでみられる.』と説明される.ところで最終氷期(約2万年前)の日本付近の海面は現在よも140 mほど低かったと考えられており,現在の日本の海岸のほとんどが沈水したことになる.それにもかかわらず,リアス海岸が三陸海岸,志摩半島,若狭湾沿岸のように,限定された海岸にしかみられないことについて疑問に感じたことはないだろうか.この理由について岩石海岸の縦断形の観点から考えてみたい.
3.トンボロ地形
砂浜の沖合に島が存在する場合に生じる砂州の代表としてトンボロがある.トンボロとは,『砂浜と島を結ぶ砂州であり,沖からの波が島を屈折して回り込み,島の背後は2方向からの波と沿岸流が互いに打ち消し合い,相対的に静かな水域となる.そこに運搬されてきた土砂が堆積し,砂州が形成され,やがて海岸と陸続きに成長した地形である』と説明される.古くから世界三大夜景のひとつとされる北海道函館市のトンボロは有名である.では,波が作用する海岸に砂浜と島があれば,必ずトンボロは形成されるのであろうか.たとえば,砂浜や砂丘が続く新潟平野の沖に存在する佐渡島にはトンボロは発達していない.このように砂浜と島があるにもかかわらず,トンボロができたり,できなかったりする理由について島の大きさや,島の位置関係から考えてみたい.