日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S301
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発表要旨
ジェンダーの視点から何が見えるようになったか
*吉田 容子影山 穂波倉光 ミナ子
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抄録

1.シンポジウム開催の背景と目的

1960年代に欧米諸国で始まった第二波フェミニズムの担い手たちがアカデミアにも参入したことで,社会的文化的に構築されるジェンダーという概念が生み出された。1970年代に欧米諸国において誕生し展開してきたフェミニスト地理学の背景には,第二波フェミニズムのみならず,同時代に地理学内に興った人文主義地理学の影響もある。

1990年代に入り,フェミニスト地理学研究がようやく日本の地理学界で紹介されるようになった。当初は,地理学に内在する男性中心主義や覇権主義に対する批判的議論が提起されるとともに,都市/郊外を事例に公的/私的空間の二項対立構造の中で生産/再生産労働を強いられる既婚女性の生活空間などに,多くの研究者が関心をもった。

近年では,経済のグローバル化,新自由主義的な福祉政策の導入,労働市場における分業体制のフレキシブルな再編,価値観やライフスタイルの変化,心の性と身体の性の一致を自明視してきた従来の性自認(ジェンダー・アイデンティティ)の揺らぎ,などの影響を受け,二項対立的空間構造を前提としては捉えきれない社会経済的現実が生じてきている。さらに,近年の海外の地理学研究において身体という空間スケールをめぐる事象に関心が集まるようになると,日本の地理学においても,地図上には表象されにくい身体レベルの空間を対象とする研究や,日常空間が異性愛主義に満ちていることをセクシュアル・マイノリティの視点から検証する研究,都市空間における女性の身体をめぐる問題を国家権力の介在に着目して究明した研究など,その視点は多様化している。

こうした潮流を受け,シンポジウムのテーマを「ジェンダーの視点から何が見えるようになったか」と設定した。各報告者の研究において,ジェンダーの視点から何を語ることができるのか,何を解明できるのかを報告していただき,それらを踏まえ,日本の地理学研究における成果や到達点,今後の課題,さらには,空間・場所を探究する地理学がジェンダーの視点を用いる有効性について議論する。

2.シンポジウムの概要

第1部では,各報告者が,自身の研究で「ジェンダーの視点から何が見えるようになったか」を発表する(報告者と題目は以下を参照)。影山穂波氏「地理学におけるジェンダー視点の課題と展望」,久木元美琴氏「福祉サービスの地理学的研究におけるジェンダーの視点—保育・子育て支援の地理学の到達点と課題—」,湯澤規子氏「在来・近代産業を支える「労働」と「生活」の関係と論理—「生きること」を論じるジェンダー地理学—」,原口剛氏「マルクス主義とフェミニズムの接点—寄せ場・野宿の運動からの視角—」,須崎成二氏「空間/場所と性的少数者の視点」。第2部では,熊谷圭知氏とオーガナイザーの吉田からのコメントの後,関村オリエ氏の司会で総合討論の場を設ける。本シンポジウムを通じて,ジェンダーを含めた多様で重層的なアイデンティティの構築に関する検討が,社会的経験の産物としての空間・場所の理解にいかに重要であるかを確認する。

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