日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 123
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発表要旨
フィンランドの高等学校の地理教育とSTEM
*湯田 ミノリ
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抄録

1.調査の目的

フィンランドの学校教育において,地理は,生物,化学,物理と同じ自然科学の分野に入っており,特に生物との結びつきが強い。そうした背景もあり,地理のカリキュラムは,STEM(Science, Technology, Engineering, and Mathematics)の要素を含んでいると推察される。しかしながら,2015年に発表された高等学校のナショナルコアカリキュラム(Lukion Opetussuunnitelman Perusteet)における地理の説明では,STEM的な要素についてはあまり触れられていない。そこで,本研究では,フィンランドの高等学校における地理の授業の実例を収集し,授業内容及び授業中の生徒たちの行う作業において,STEM的要素を含むのか,含むとしたらどのような内容なのかを明らかにする。

2.調査の概要

 筆者は,2018年11月,2019年3月及び5月に,フィンランドのトゥルク,キミト,ヨエンスーの3市町の高等学校において調査を行なった。この国の教育では,地域の資源の活用が重視されていることから,フィンランド国内でも歴史的背景,社会環境,自然環境ともに特徴的であるこれらの場所を選択した。

 調査方法は,実際に授業を見学し,その授業内容と教員の利用する教材,生徒の作業内容をデータとして収集するというものである。一連の調査で,地理及び生物の授業の事例を収集した。合計30の授業事例を集め,うち地理の科目(GE1~GE4及びGE6)は22単位時間,生物の科目(BI1~BI3及びBI5)8単位時間であった。

3.収集したデータと結果

 本研究では,授業中に教員が教材として見せるものや,学生の行う課題の作業内容を,ジオメディア(Geomedia)1),科学,技術,工学,数学に分け,授業内でどのような要素が含まれていたかをデータ化した。

 結果としては,全ての地理の授業において,教員,生徒両方が何らかのジオメディアを活用していた。PCも90%の授業で生徒が利用しており,生徒個人またはグループで行う作業を行なっていた。さらには,VRカメラやドローンを使う例も見られた。授業内容は,隣接科学分野を含み,生徒たちの行う作業には,数学の知識を必要とするものもあった。

また,生物の授業でも,地形図や主題図など,地図を読み,考察する作業が含まれており,GISを使った野外調査を行うなど,地理のスキルが,他のSTEM科目にも生かされていることがわかった。

4. 考察

このように,フィンランドの高等学校における地理は,授業の内容にSTEMの要素が多く含まれ,かつPCが活用されていることがわかった。これらの背景としては,フィンランドの学校教育におけるこの科目の持つ性質に加え,大学入試 (Ylioppilastutkinto) の影響が大きい。

フィンランドの大学入試は2019年春から全てテストが電子化された。地理の試験内容も,与えられたデータから表計算ソフトを使って計算し,グラフを作成し,その結果のキャプチャ画面を解答として提出するといったPCを活用した問題が出題される。こうしたPCスキルが,試験の結果を左右することから,授業中の課題も必然的に数学や,技術的な内容が多くなる。また地図や図表,ダイアグラム,写真や動画を見て質問に答える問題も出題される。ジオメディアの活用を強調するコアカリキュラムと大学入試の試験内容が,授業内容にSTEM的要素を多く含む理由といえよう。

本研究は,JSPS科研費JP 17K01231の助成を受けたものです。

1地図,位置情報,ダイアグラム,画像,映像,文献,メディア,口頭発表や,その他地理情報を取得,表示する様々な方法の活用を意味する(OPH 2015)

文献

Opetushallitus 2015. Lukion Opetussuunnitelman Perusteet 2015. Helsinki.

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