日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P001
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発表要旨
熱田台地北方,矢田川左岸の沖積低地に発達する旧河道の形成時期
*杉戸 信彦後藤 秀昭細矢 卓志
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抄録

(1)はじめに

熱田台地北方,矢田川左岸の沖積低地には,幅約2 km・比高約1 mの微高地が南北帯状に分布しており,堀川断層および尼ケ坂断層の活動に起因する背斜状変形の可能性が指摘されている(後藤・杉戸,2012;杉戸・後藤,2012).この微高地を東西方向に横断する矢田川の旧河道も,これらの活断層による変位を受けている(同).

この旧河道の形成時期を解明するため,愛知県名古屋市北区黒川本通二丁目においてボーリング調査を行った.

(2)結果と考察

2017年6月22日,エコプローブEP-26を用いて4本のコア(直径86 mm)を得た(各7・5・5・5 m長).孔口標高は1:2500名古屋都市計画基本図VII-MD 94-3(2010年測量・現地調査)の標高点を基準とした.掘削地点は1946年米軍撮影の航空写真(M148-A-7)では耕作地として利用されており,その後駐車場となり,調査当時は空き地となっていた.

観察された地層は,上位より順に10〜170層に区分される.10層は盛土,20層は耕作土である.30層は主に砂層・砂礫層,40層は極細砂層,50層は黒色シルト層,60層は極細砂層・細砂層である.70層は主にシルト層・細砂層であり黒色や暗い灰色を呈する.80層は主に細〜中砂層や粗砂〜細礫層であり一部は上方細粒化を示す.旧河道構成層は80層以浅と推定される.

90〜140層はシルト層であり,主に黒色や黒灰色,暗灰色を呈する.150層は主として黒色〜暗灰色を示すシルト層であり砂を含む.160層は黒色シルト層である.これらの地層は後背湿地堆積物と推定される.170層は砂層・砂礫層である.

以上の地層から得られた試料のうち,7試料について放射性炭素年代測定を実施した.

先述のように,この旧河道は堀川断層および尼ケ坂断層による変位を受けている.変位を受けた時期は,80層堆積後のいずれかの層準に対応すると考えられる.90層最上部から得られた植物片が1680 ± 30 yr BPの放射性炭素年代値を示したことから,変位を受けた時期は少なくともこれより後と推定される.

本地域には条里地割の存在が知られている(金田,1980,2016).活断層分布と条里地割を重ね合わせたところ,合致が見いだされた.すなわち,条里地割は,堀川断層・尼ケ坂断層間の微高地においては,周囲より低い旧河道付近の一部に認められるのみであるのに対し,その東西には広く認められる.活断層に起因する微高地が水利条件を拘束し,条里地割の分布を支配する要因となった可能性が高い.したがって,これらの活断層は条里地割の成立時期より前に活動した可能性が高い.

今後,宮本・上中(2015)などの矢田川左岸沖積低地の地形発達に関する資料の確認や,条里地割の認定手法の確認を含め,さらに検討をすすめる予定である.

<謝辞>ボーリング調査の際には,関係者の皆様にお世話になった.記して感謝の意を表する.掘削は中央開発株式会社に実施して頂いた.本研究には科学研究費補助金若手研究(B)15K16285「弥生時代以降・都市圏直下の大地震と地形環境変化に関する変動地形学的研究」および同基盤研究(C)18K01127「活断層による微地形の形成が居住と土地利用に与えた影響の地理学的解明」を使用した.

<文献>後藤・杉戸,2012,E-journal GEO;金田,1980,「古代(2)−律令時代−」,『愛知県開拓史通史編』;金田,2016,「条里と尾張・三河の条里遺構」,『愛知県史通史編1原始・古代』;宮本・上中,2015,半田山地理考古;杉戸・後藤,2012,日本活断層学会.

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