日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P028
会議情報

発表要旨
南海トラフ巨大地震を想定した救援物資輸送と住民避難
*田中 耕市
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

I. 研究目的と背景

本研究は,南海トラフ巨大地震が発生した際における,本州から四国地方の広範囲へのプッシュ型救援物資輸送について,道路輸送面におけるアクセス困難性を定量的に明らかにする.地震による土砂災害と津波浸水による道路閉塞のリスクを反映した道路ネットワークを用いて,本州から広域物資拠点への輸送シミュレーションを行った.具体的には,地震・津波に伴う道路閉塞が確率的に発生することを前提に,物資輸送のアクセシビリティの変化をモンテカルロ・シミュレーションにて測定した.そして,道路による輸送自体が困難になる地域や,輸送時間の上昇幅とそのリスクについて明らかにした.

Ⅱ. プッシュ型救援物資輸送と広域物資輸送拠点

国による南海トラフ巨大地震における物資救援の計画では,発災後3日までは家庭および自治体の備蓄によって必要な物資を賄い,発災後4~7日までを本州側からのプッシュ型支援にて対応するとされている.

本州側からのトラックによる輸送は,3本の本州四国連絡橋を経由して,四国各県によって県内に数か所ずつ設置される広域物資輸送拠点へと行われる.そこで物資の積み替えと分配がされて,各市町村レベルの地域内輸送拠点へと輸送される.そして,地域内輸送拠点から避難所へと物資が引き渡され,避難者へと渡ることになる.本州側からのプッシュ型救援物資の輸送は,以上のような階層構造をなしている.

Ⅲ.道路閉塞リスクの評価

 被災による道路閉塞は,津波浸水と土砂災害の二通りを想定する.津波浸水については,中央防災会議防災対策推進検討会議南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループによって公表された浸水域および浸水高(「『紀伊半島沖~四国沖』に『大すべり域+超大すべり域』を設定」のケース)をもとに,一定の浸水高以上が予想される範囲の道路は,深刻な損傷が生じるとみなして通行不可とする.ただし,一定条件下の道路については,啓開作業により通行可能状態に復旧できると仮定する.一方,土砂災害については,各都道府県が指定する土砂災害危険箇所のデータをもとに,土砂災害危険地域に該当する道路において道路閉塞が確率的に発生するとみなす.

Ⅳ.分析結果

輸送拠点によって,救援物資輸送困難になるリスクや遅延度が大きく異なった.迂回路の選択性の高低によって,途中経路の道路閉塞の確率が高くてもアクセシビリティがあまり低下しないケースがある一方,確率は低いものの道路閉塞が発生した際にはアクセシビリティが著しく低下するケースもみられた.特に,南部の輸送拠点においては,救援物資輸送が長期にわたって不可能になる可能性もあり,地域における備蓄容量を増大させておく必要もあるだろう.

著者関連情報
© 2019 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top