主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2019年度日本地理学会秋季学術大会
開催日: 2019/09/21 - 2019/09/23
2003年のビジットジャパンキャンペーン以降,訪日外国人は顕著に増加する傾向にあり,2003年の521万人から2018年には3,000万人を突破するに至った。この期間の増加率,特に2011年以降の伸びは世界的に見ても特筆されるものである。2002年における外国人旅行者受け入れ数の世界順位では日本は33位だったものの,2016年には16位まで上昇している。
しかしながら,訪日外国人は全国にまんべんなく訪れるわけではなく,都市部に偏ることが指摘されてきた(国土交通省観光庁2018: 39-40,内閣府政策統括官 2018: 42-47)。具体的には,東京都や大阪府,千葉県,京都府などの都市部への集中が目立つのである。現状でも地方を訪れる訪日外国人は増えており,増加率では都市部以外の地方の方が大きいことも示されている(国土交通省観光庁 2018: 44-45)。しかしながら,同じ地方の中でも北海道や九州に比べて,東北や山陰では訪日外国人が少ないようである。つまり,都市部以外の地方の中でも,訪日外国人の訪問の多寡に差が見られるのである。訪日外国人による経済効果などを全国へ行き渡らせるためには,東京や大阪などの都市部から地方へ,そして地方の中でも相対的に出遅れているところへ,訪日外国人がより一層拡散することが重要であろう。
訪日外国人の全国的な周遊ルートに関する既存の研究では,金(2009),日比野ほか(2011),松井ほか(2016),古屋・劉(2016),矢部(2016)などがある。しかし既存の研究では,居住地による周遊ルートの違いなどに重点が置かれており,時系列での周遊ルートの変遷については明らかにされていない。地方の周遊ルートが形成されてきた状況を捉えることができれば,訪日外国人の地方訪問に影響する要因について示唆を得ることができると思われる。
そこで本報告では,訪日外国人の地方訪問の実態を明らかにするため,既存の統計資料を用いた周遊ルートの分析を行う。特に,訪日外国人が増加するにつれて周遊ルートがどのように変化したのか,その時系列での変遷を明らかにする。その上で,周遊ルートが変化した要因を訪日外国人の流動データから検討する。
まず,訪日外国人の地方訪問の実態を捉えるため,2011〜2017年の周遊ルートを抽出してその変遷を明らかにすることを試みた。その結果,2013年頃を境として,地方の周遊ルートが細分化されて,主な目的地として訪問される場合が増えたことが示唆された。すなわち,2011年には六つの周遊ルート(北海道,東北,東京大都市圏,関西,九州,沖縄)が抽出されたが,2013年には関西の周遊ルートから中部と四国の周遊ルートが細分化されて独立したのである。
地方の周遊ルートが形成された要因を訪日外国人の流動データから検討した結果,地方の周遊ルート内にある空港への外国からの直行便が影響していた。しかしながら,地方の周遊ルート外にあるゲートウェイとなる大都市からの流入も引き続き一定の役割を果たしており,地方への誘客を考える際には,この経路も決して無視することはできない。また,レンタカーの利用も増えており,このことが交通機関の利便性が比較的低い地方において,旅行者の流動を増やしている側面もうかがわれた。