日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S103
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発表要旨
エコツーリズムと観光地理学
*平井 純子
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抄録

1.エコツーリズムについて

 エコツーリズムとは、「自然環境の保全」「観光振興」「地域振興」「環境教育」をバランスよく進める観光の形である。日本での普及は、90年前後より小笠原(89〜)、西表島(91〜)、屋久島(93〜)など島嶼部から始まり、全国組織であるエコツーリズム推進協議会等で議論が深められた。2004年に環境省によりエコツーリズムモデル事業が開始、対象地域を自然豊かな地域(知床や屋久島等)とともに、多くの観光客が訪れる地域(裏磐梯や富士山北麓等)、さらには、里地里山の身近な自然地域(飯能や飯田等)とし、日本における展開を多様なものとした。2008年には議員立法によるエコツーリズム推進法が施行され、19年7月現在、法に基づく全体構想認定の自治体は15あり、埼玉県飯能市は認定第一号となっている。

2.エコツーリズムと観光地理学

 エコツーリズムの性格上、その自然観光資源は地形地質のみならず自然環境や歴史文化含め地理的要素が根底にある。それゆえに、経済効果や人の交流、教育効果など観光地理学の視点から取り上げるべき課題は多く、特に里地里山の身近な自然地域の場合は、活動自体の持続性といった課題を含め、顕著である。その解決には多角的な視点、多面的な運用、異分野間の情報交換と協働が欠かせない。ジオツーリズムはエコツーリズムに内包される概念といえ、課題解決に向けた手法は同質のものになるといえよう。

3.駿河台大学での取り組み

 飯能市に立地する駿河台大学では、アウトキャンパススタディの一環として、地域の人々と協働しながら、様々な活動に取り組む授業科目「まちづくり実践」を設置する。「まち」を学びの場に交流する中で、コミュニケーション能力を磨き、社会観や職業観、行動力を身につけることを目的としている。その一つに、入間漁業協同組合と協働し、環境調査や外来魚駆除、エコツアーを実施するが活動がある。またゼミ活動として、「駿大版ダッシュ村」と称し山間地区にある古民家再生をし、この家を使って子ども向けの自然体験のエコツアーなどを実施している。これら地域の教育力に基づく実学が、学生の社会人基礎力を育成する有効な手段であり、漁業振興や地域活性化、大学運営にとってもプラスの影響がみられ、多面的な効果が得られている。

4.飯能市におけるエコツーリズムの現状と課題

 飯能市は、2004年のモデル地区選定の際、「首都圏に近いことで経済的に成り立つ」、「都市から山村までがあり日本の縮図のようなところで、全国の事例になる」と、エコツーリズムの推進による地域振興のモデルになることが期待されていた。しかしながら、飯能市では行政主導で収益性が考慮されていないこと、滞在型、消費型観光に結びついていないこと、エコツーリズムへの参画の仕方と意識に都市部と山間部で差異がみられ、経済的利益を求めない実施者によるエコツアーが多く行われている現状では利益が得られるエコツアーの実施が難くなっていることが指摘されている(中岡 2018)。飯能市は、エコツーリズムを通じて地域内外の交流が進んだという点では評価できるが、当初飯能市に期待されていた「経済的に成り立つエコツーリズム」が実現できておらず、持続可能な観光の形となっていないのが現状で、課題となっている。

【文献】中岡裕章(2018)埼玉県飯能市におけるエコツーリズムの意義と問題点—エコツアー実施者の参画意識に注目して—、地理学評論vol.91,NO.2, 146-161

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