日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 208
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発表要旨
港湾都市の津波浸水想定地域における施設立地の変化
*川村 壮橋本 雄一戸松 誠竹内 慎一
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抄録

1.研究の背景と目的

 港湾および港湾都市の内部構造を取り扱った研究として,酒井(2002)は釧路港における港湾機能の郊外移転と周辺の再開発の状況を明らかにし,その要因として埠頭の専門化等の港湾側の要因の他,背後圏の産業構造や輸送手段の変化を挙げている.

 このような港湾都市の変化と災害の関係について,川村・橋本(2017)は積雪寒冷地の港湾都市である苫小牧市を対象に建築物の立地状況と津波浸水想定の分析を行い,港湾周辺の工場立地や住宅の郊外化が特に冬季の津波災害リスクの増大に影響を与えている事を明らかにした.

 そこで本研究は,北海道東部の中心都市であり津波災害の発生が想定される釧路市のうち,阿寒町・音別町と合併する前の旧釧路市域を対象に,港湾や背後地の都市で想定される津波被害の解明に向け,津波浸水想定地域内の都市や港湾の開発過程を明らかにする.

2.使用データと研究方法

 施設立地の変化をみるため,建築物は「都市計画基礎調査」,港湾設備は「港湾計画図」を使用する.建築物や港湾設備の都市の中心部や海岸からの近接性,建築・設置年代ごとの立地状況等から,釧路市・釧路港の開発過程を概観する.次に,これらの結果と「津波遡上データ」との重ね合わせにより,津波浸水想定地域内の建築物や港湾設備の立地状況とその変化を明らかにする.

3.分析結果と結論

 歴史的に釧路市街は市域の東部から次第に西部に拡大し,また港湾も東港・西港の順に整備された.併せて西港周辺で工場や倉庫の集積がみられ,津波浸水想定地域内で建築物や港湾設備の立地が進展した.他方,釧路駅周辺の中心市街地においては津波からの避難に活用できる高層・堅牢な建物の立地が進んでいる.

 釧路川以西の地域は大部分が津波浸水想定地域となっているが,以上のような開発の結果,中心市街地周辺は津波避難に活用できる建築物が多く立地する一方で,西港周辺等の郊外ではそのような建築物が少ない状況にあることが明らかとなった.

参考文献

酒井多加志 2002.釧路港における港湾空間の発達過程.地学雑誌,111(1), 100-117

川村 壮,橋本雄一 2017.津波浸水の時間経過を考慮した建物ごとの避難可能性の時空間分析−北海道苫小牧市を事例として−.地理情報システム学会講演論文集,26,CD-ROM

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