日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 526
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発表要旨
アンモナイト化石と地域博物館を活用した地域づくり
*町田 知未
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抄録

1.はじめに

 日本の多くの自治体は人口減少や高齢化といった課題を抱えている。特に,地方の小規模自治体では,過疎化が進み,その解決策が模索されてきた。国主導の大型施設の整備やリゾート開発が全国各地で行われたが,必ずしも地域の状況に合ったものではなく,集客への関心や産業振興を優先させたことが居住環境の悪化や生活の質の低下を招き,地域住民のアイデンティティを喪失させた側面もあった。こうした課題に直面した地域では,それまでの地域振興策を見直し,地域独自の自然・人文環境などの地域資源を保全し,地域の魅力を高めこれを活用することによって,地域外から人を呼び込み,地域内外の交流を促進して,地域経済を活性化させる地域づくりが目指されている。しかしながら,自然・人文環境や産業構造といった地域特性は地域それぞれで異なるため,地域づくりのあり方も地域によって違いが生じるはずである。それゆえに,さらなる事例研究の蓄積が必要である。また,先行研究の多くは,地域住民の実態,もしくは来訪者の実態のどちらかに偏った研究となっている。そのため,両者の意向を把握し総合的に研究する必要がある。

 本研究では,北海道中川町における化石と地域博物館を活用した地域づくりの現状と課題を,住民と来訪者の意識に着目することによって明らかにすることを目的とする。

2.データと方法

 2017〜2018年度に中川町の地域博物館である中川町エコミュージアムセンター(以下センター)の来館者と地層観察教室の参加者へのアンケート調査,2019年度にセンターや観光協会などといった町の主要施設においてアンケート調査を行った。これらを中川町の産業や人口の推移や歴史的背景と併せて分析する。地層観察教室とは化石発掘体験を行うセンター主催の日帰りの催しである。

3.結果

 中川町における化石を活かした取り組みは,クビナガリュウ化石の発見を契機に行われるようになった。「住民一人ひとりが学芸員」と「地域の魅力の新再発見」を基本理念とした「エコミュージアム構想」が提唱され,構想の中核施設となるセンターが設立された。

 アンケート結果から見た来訪者の実態によると,センター来館者にとって中川町は通過点であるのに対して,地層観察教室の参加者は町内に宿泊する者の割合が高かった。また,センター来館者,地層観察教室参加者ともに,中川町への来訪が初めての者が多かった。これらのことから,地層観察教室のような体験型のイベントは,町の宿泊者数を増やし,滞在時間を延ばす方法として有効であるといえる。また,センターやイベントが中川町を初めて訪れるきっかけとなっていた。しかし,来館者はセンターや化石以外の町内の地域資源に魅力を感じていないことから,中川町を訪れていても,センターを来訪するのみにとどまっていると考えられる。来館者の目的をセンター来訪のみにとどまらせないためには,センターや化石とそれ以外の町の地域資源をつながなければならない。そのためには,センターを中川町の情報発信の拠点とし,化石以外の地域資源を発信する必要がある。センターを来町の契機とし,町内の他の施設の来訪や特産品の購買を促す流れを創出することが可能になると考えられる。

 センターは中川町の教育委員会の管轄下にある。中川町では,エコモビリティや地場産品のブランド化など,化石以外の地域資源を活かした様々な取り組みが行われている。しかし,それらはそれぞれ異なる運営主体によって管轄され,独立している。今回の調査では,少なくとも化石と他のそれらの地域資源との関連性はみられなかった。このことから,運営主体同士の協力体制が不十分である可能性があると考えられる。

 化石以外の地域資源を活用した取り組みや,それらの取り組みを行う主体間の関係は把握しきれなかったため,今後の研究課題とする。

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