日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P003
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発表要旨
郡山盆地における浅部地下の地形と地質構造
*石原 武志鈴木 毅彦谷藤 允彦阿部 健一郎
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抄録

1. はじめに

(国研)産業技術総合研究所 福島再生可能エネルギー研究所では,地中熱ポテンシャル評価研究の一環として,郡山盆地浅部(深度100m程度)で地質調査を実施してきた.郡山盆地ではこれまでに3本のオールコアが掘削され(KR-11-1,37°25′43.7″N,140°22′28.6″E,+248.60m,深度100.33m;GS-KR2015-1,37°24′4.9″N,140°20′1.6″E,+251.60m,深度100m;GS-KRC-1,37°22′10.0″N,140°19′55.5″E,+249.40m,深度80m),層序対比が行われた(笠原ほか,2017;石原,2018;石原・鈴木,2019).本発表では,既存の柱状図・井戸資料の解析から,郡山盆地の浅部地質構造について考察する.また,一部のオールコアの火砕流堆積物に関しては,石原・鈴木(2019)から再解釈した.

2. 郡山盆地の地形・地質概要

 阿武隈川中流域に形成された郡山盆地は,西と東をそれぞれ奥羽脊梁山脈と阿武隈山地に挟まれた内陸盆地である.阿武隈川沿いの低地の高度は約220〜230mであり,台地の高度は西部の上流側で300〜350m,東部の下流側で230〜250m程度である.台地を主に構成する郡山層は,中〜後期更新世の未固結堆積物からなり,その下位には凝灰岩(または火砕流堆積物)を挟む白河層(前期更新世)や片平層(鮮新統)が分布する(鈴木ほか,1967,1977).

3. オールコアの火砕流堆積物の再解釈

 石原(2018)はGS-2015-1コアの深度約26-39mの火砕流堆積物を勝方火砕流堆積物(Sr-Kc-U8; Suzuki et al, 2017,白河層の一部)と解釈したが,火山ガラスの主成分化学組成を再分析した結果,天栄火砕流堆積物(Sr-Tne; Suzuki et al, 2017,白河層の一部)に似ることから,本発表ではSr-Tneと再解釈する.また,石原・鈴木(2019)は,同コアの深度約42-49mとGS-KRC-1コアの深度約52-65mの火砕流堆積物(いずれも片平層)について,岩相とFT年代が類似することから対比できると考えた.しかし,両者のガラスの主成分化学組成には食い違いが見られたため,異なる火砕流堆積物の可能性がある.また,これらは阿武隈山地に分布する三春火砕流堆積物(久保ほか,2003)ともガラスの主成分化学組成が異なり,対比できなかった.

4. 浅部地下の地形・地質構造

郡山層の下底面高度は170〜240m程度(深度約25〜70m)の範囲にあり,起伏に富む.笹原川左岸の安積町付近の台地の地下と,逢瀬川左岸の富久山町付近の台地の地下には下底面の凹(谷)部が存在する.また,両者の間の郡山市街地中心部には,下底面高度の凸(尾根)部が概ね東西方向に延長する.埋没した尾根部の延長方向は,現在の郡山盆地の南を限る丘陵の配列と類似している.凹部は,北流する阿武隈川と東流する支流のかつての谷地形を表していると考えられる.阿武隈川の谷は,郡山駅以北ではKR-11-1コア付近を経由して盆地の北へ抜けるようにみえることから,郡山層堆積直前の阿武隈川は現流路よりも概ね西よりを流れていた可能性が考えられる.

郡山層は砂・泥・泥炭などの細粒堆積物が卓越する上部と,礫層主体の下部に分かれるとされる(鈴木ほか,1967).そのような層相の特徴から郡山層の上部と下部を区分すると,下部は郡山層下底面の凹部を埋積するように分布し,上部は凸部と郡山層下部を覆って台地の広範囲に堆積する傾向にある.郡山層下部と上部の境界面は比較的平坦である.細粒な郡山層上部の形成は,盆地の北部に存在する安達太良火山の活動との関連性が指摘されている(鈴木,2018).

柱状図・井戸資料の郡山層より下位にある凝灰岩を中心とした地層は,オールコアの層序にもとづけば白河層と片平層の両者が混在していると考えられる.また,コアの火砕流堆積物の分布高度を比較すると,白河層のSr-Kc-U8が片平層の火砕流堆積物よりも深い位置に堆積している(下底面の比高は約45m).郡山盆地には活断層が確認されていないことから,テクトニクスでこの高度差を説明することは難しい.このことは,白河層と片平層の境界面も起伏のある複雑な構造を有することを示唆する.郡山盆地では、鮮新統〜前期更新世の頃から段丘あるいは丘陵状の地形が発達し,火砕流堆積物による谷地形の度重なる埋積と,その後の河川の侵食による谷地形の形成が繰り返されていたのではなかろうか.しかし,柱状図資料の層相のみでは白河層と片平層を区別することは困難であるため,本発表では両者を一括して扱う.

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