主催: 公益社団法人 日本地理学会
会議名: 2019年度日本地理学会秋季学術大会
開催日: 2019/09/21 - 2019/09/23
晴夜には一般に放射冷却によって接地逆転層が形成されるが,都市域では建物や地表面による鉛直混合や加熱の影響により,明瞭な接地逆転層は形成されにくく,混合層が形成される.数値モデルによって建築物の高層化など都市化による境界層への影響が指摘されているが (例えばMartilli 2002),観測結果に基づく議論は乏しい.東京タワーでは高度別気温を長期間観測しており,都心における温度鉛直構造を理解するうえで有用であると考えられる (中島ほか 2018).本研究では1991年度から2016年度の東京タワーの高度別気温観測値(4高度:4, 64, 169, 250 m)を用いることで,東京都心域の冬季晴天弱風夜間における温位鉛直分布の経年変化を解析した.
日没直後(18時)はいずれの年代も地上から高度250 mまで接地層は中立に近い.一方で,日の出前(翌6時)の鉛直温位傾度は正を示し安定であるが,安定度は低下傾向にあり,より中立に近い温位鉛直分布が形成されやすくなったと考えられた.
日没直後の安定度は中立に近いことに着目し,日没直後と日の出前の温位差を算出した.1990年代と比較して2006年以降は下層では日没直後の温位低下が小さくなる傾向にある.一方で,上層の温位低下量は2006年以降のほうがわずかに大きい.この傾向は年々の値による経年変化からも認められた.上層における温位低下量の増加は建築物の高層化に伴う鉛直混合の促進による寄与が示唆された.