日本地理学会発表要旨集
2019年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 809
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発表要旨
食料品充足率を加味した食料品アクセスマップの作成と買い物環境の再検討
*岩間 信之池田 真志駒木 伸比古田中 耕市佐々木 緑浅川 達人今井 具子
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抄録

1.研究目的

食生活が偏り低栄養状態に陥る高齢者は,全国で17.9%に達する。こうした高齢者は,特定のエリアに集中する傾向にある。このことは,何らかの地理的要因が,住民の食生活を阻害していることを示唆する。こうした地理的要因の解明は,地理学が担うべき課題である。

これまでの研究から,フードデザート(以下FDs)の分布と食生活が悪化した高齢者(低栄養リスク高齢者)の分布には,地域レベルで高い相関があることが分かっている。日本のFDsは「①社会的弱者(高齢者,低所得者など)が集住し,②買い物利便性(食料品アクセス)の悪化と,家族・地域コミュニティ(地域レベルのソーシャル・キャピタル)の希薄化のいずれか,あるいは両方が生じた地域」と定義できる。

食料品アクセスは,FDsを規定する重要な指標の一つである。現在,農林水産政策研究所をはじめ様々な学問領域で,食料品アクセスマップが作成されている。しかし,現行の地図と実際の低栄養高齢者の分布には乖離が存在する。食料品アクセスと住民の食生活の相関関係も,現段階では証明されていない。

現行の食料品アクセスマップは,①分析対象が生鮮品販売店に限定している点,および②店の品ぞろえを考慮していない点に課題が残る。現在の地図は,自宅から生鮮品販売店[百貨店,スーパーマーケット,鮮魚店,精肉店など]までの距離から算出されている。総菜や冷凍食品などを中心に扱うコンビニやドラッグストアは,対象外とされている。これでは,自立度の低下などの理由で調理が困難となり,中食に依存せざるを得なくなった高齢者が,分析対象から漏れる可能性がある。多様な店舗を分析対象とするためには,品ぞろえを統一的に評価する指標が必要となる。そこで本研究では,食料品充足率を加味した新しい食料品アクセスマップを作成したうえで,東京都心部や地方都市,農漁村における買い物環境を地理学的に考察した。



2.研究方法

本研究の手順は以下の通りである。第一に,厚生労働省の「国民健康・栄養調査報告」をベースに,健康的な食生活を維持するうえで必要な食料品群を,計86品目選定した。第二に,研究対象地域のすべての食料品店を対象に,上述の食品群リストのなかで,各店が実際に販売している食品の割合(食料品充足率)を測定した。第三に,食料品充足度を加味した新しい食料品アクセスマップを,東京都心部,地方都市,農漁村などで作成した。



3.分析結果

分析で得られた知見は,以下の通りである。➀食料品充足率は業態別に異なる。また,コンビニやドラッグストアも一定の品ぞろえを確保している。②新旧食料品アクセスマップには,大きな乖離が存在する。従来の食料品マップは,東京都心部の買い物環境を過小評価していた。反対に農漁村では,買い物環境が過大評価されていた。③新しい食料品アクセスと地域住民の実際の食生活の間には,統計的に優位な相関が確認された。

今回の報告では,以上の知見や住民アンケートをもとに,調査地域における買い物環境の検討結果を報告する。



参考文献

岩間信之ほか2018.食料品充足率を加味した食料品アクセスマップの開発.フードシステム研究25(3):81-96.

浅川達人ほか『食料品充足度を加味したアクセス測定指標による食品摂取多様性の分析』日本フードシステム学会2018年度全国大会発表要旨集.

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© 2019 公益社団法人 日本地理学会
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