抄録
本発表は、大山街道の現・世田谷区部分における伊能忠敬測量隊の測量について、測量日記をもとに、測量隊の行程と主な関係地名等を地図化する。さらに、測量日記、江戸府内図、「輿地実測録」、大図・中図・小図の記載内容について、相互に比較しながら検討した結果、以下のことが明らかとなった。
1. 江戸府内図は、武家屋敷の位置表示に特色がある。また、周辺部の描写は簡略化されている。
2. 測量日記と「輿地実測録」は、別系統の文書として成立している。
3. 測量日記は測量隊が通過する村の名前を記載するが、大図には沿道から少し離れた村の名前も書かれる。中図では測量隊が通った村のみを表示し、小図では類似村名をまとめたり規模が非常に小さい村を省略したりしている。
4. 測量日記と大図には、領主の記載がある。
5. 川・用水は、測量日記から大図・中図・小図になるにつれ、まず文字記載がなくなり、次に青線表示が消える形で簡略化される。
6. 寺社は、測量日記では沿道の寺社と、道路から離れた著名な寺社が記載されるが、大図では著名寺社に限られ、中図・小図ではさらに簡略化されたうえに記号表示になる。
なお、「輿地実測録」と『大日本沿海実測録』で伊能図の凡例が大きく異なること、大図・中図・小図に比べて、江戸府内図や「輿地実測録」への関心が低いと思われることも指摘しておきたい。
本発表の詳細は、小田(2019)として印刷予定である。